【販売中止】フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の効果と副作用

フェルムカプセルの効果と副作用について、血液内科専門医がまとめたイラストです。

フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)は、鉄欠乏性貧血に処方されるカプセル剤です。

徐放性の薬剤であり、1日の内服回数を少なくすることで服用の負担を軽減できます。

今回は、フェルムカプセルの効果や副作用について解説していきます。

フェルムカプセルとは?

フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)は、唯一のカプセルの形をした経口鉄剤です。

青いカプセルの中に、茶褐色の直径1mmの顆粒を含んでいます。この顆粒が徐放性(ゆっくりと溶け出すタイプ)なので持続性があり、1日1回のみの内服でも効果が見込めます。

フェルムカプセルの適応

フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の適応として、以下が認められています。

  • 鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血は、様々な種類のある貧血の中で、最も多く見られる疾患です。

血液中に存在するヘモグロビンは、鉄を原料として作られます。ヘモグロビンとは、体内の様々な場所へ酸素を運ぶ役割を持つ血球成分です。

体内の鉄分が少なくなると、作られるヘモグロビンの量が不足してしまいます。そのため、酸素が体内に行き渡りにくくなり、倦怠感・立ち眩みなどの症状に繋がります。

鉄は体内で作ることはできないため、普段は食べ物から取り入れられています。鉄欠乏性貧血と診断された場合は、フェルムカプセルなどの鉄剤が処方されます。

フェルムカプセルの効果

フェルムカプセルが体内に入ると、消化管内で徐々に溶解されたのちに腸管上皮細胞に取り込まれます。腸管上皮細胞からはフェロポーチンと呼ばれるタンパク質を介して、血管内に放出されます。

血管内に放出された鉄は、血球成分であるトランスフェリンと結合して、血中を循環します。

その後、鉄は鉄貯蔵タンパク質のアポフェリチンと結合して肝臓に貯蔵されたり、血球成分を作る骨髄に取り込まれてヘモグロビン生成に使われたりして、鉄欠乏性貧血を改善に向かわせます。

フェルムカプセルの用法

フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の用法は、以下の通りです。

  • 1日1回・1カプセルを経口投与

フェルムカプセルは、鉄剤の中でも単位重量あたりの鉄含有量が高い薬です。
また、徐放性の薬剤のため、1日1回だけの内服でも効果が見込めます。

フェルムカプセルを含む経口鉄剤は、飲食物に含まれるタンニン酸と不溶性塩を作ってしまい鉄の吸収を抑えてしまうといった研究結果が出ています。

タンニン酸を含む飲食物として挙げられるのが下記のものです。

  • コーヒー
  • 緑茶

近年では「タンニン含有飲料との摂取でも鉄吸収率は変わらなかった」との報告もされていますが、できる限り水での内服が望ましいでしょう。

また、フェルムカプセルは一部の抗生剤とはキレートを形成し、お互いの薬剤吸収を妨げてしまいます。どちらの薬剤も内服する必要がでてきたら、飲むタイミングをずらして対策を取るのが一般的です。

フェルムカプセルの副作用

フェルムカプセルによる副作用で頻度が高いものが「胃腸障害」です。

本来、鉄の吸収が良いタイミングは空腹時なのですが、胃腸への副作用予防の観点から多くの場合は食後に処方されます。少し多めの水と一緒に内服することも、予防策として有用です。

フェルムカプセルによる胃腸障害がどうしても改善しない場合は、服用タイミングの変更・別の経口鉄剤への変更などの対策が取られます。フェルムカプセルによる腹痛・ムカつきなどが気になる場合は、医師・薬剤師に相談をしましょう。

また、フェルムカプセル内服中は便が黒くなります。これは、吸収されなかった鉄が便と一緒に排出されているためです。フェルムカプセル内服による便の黒色化は、特に問題はありませんのでご安心ください。

主な副作用と頻度

フェルムカプセルの副作用頻度は、以下の通りです。

  • 嘔気(悪心):1.33%(29/2184例)
  • 腹痛(上腹部痛,胃痛,胃不快感,胃重感を含む):0.82%(18/2184例)
  • 嘔吐:0.46%(10/2184例)
  • 食欲不振:0.41%(9/2184例)
  • 胃不快感:.37%(8/2184例)

参考:フェルムカプセル|インタビューフォーム

妊娠・授乳

フェルムカプセルは、妊娠中・妊娠の可能性がある女性に対しても処方される薬です。妊娠中の鉄欠乏性貧血は、胎児の低体重・早産などにつながる可能性があります。

そのため、血液検査にてヘモグロビンの値を確認し鉄欠乏性貧血があると診断された場合は、妊娠中でもフェルムカプセルが処方されます。

授乳中の女性に対しても、鉄欠乏性貧血が見られた場合はフェルムカプセルが処方されます。

フェルムカプセルの薬価

フェルムカプセルの薬価は以下の通りです。※2023年4月現在

  • 先発品(フェルムカプセル):7.40円
  • 後発品:未発売

フェルムカプセルは、2023年7月に日医工より、製造販売中止のお知らせがだされました。在庫消失とともになくなります。

品質管理体制と製造ラインの適正化の観点とのことですので、日医工の経営再建の観点で製造中止となったと思われます。

鉄剤は他にも様々なお薬がありますので、そちらに変更がなされていくかと思われます。

まとめ

  • フェルムカプセルは、唯一のカプセルの形をした経口鉄剤です。
  • フェルムカプセルで最も多く見られる副作用は胃腸障害です。
  • フェルムカプセルは、妊娠中・授乳中の鉄欠乏性貧血に対しても処方されます。
  • フェルムカプセルの薬価は、7.40円です。

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カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年11月16日

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