貧血はどのように見極める?貧血のタイプと検査
貧血とヘモグロビンの基準値
貧血とは、ヘモグロビン濃度が基準値以下となって、酸素を十分に身体の組織に運べていない状態のことです。
ヘモグロビン(Hb)濃度は、1dL(デシリットル)あたりのヘモグロビン重量(g)で示されます。血液検査上で貧血と判断される基準値の目安は以下の通りです。
- 成人男性13~14g/dL未満
- 成人女性12g/dL未満
- 80歳以上11g/dL未満
- 妊娠中10.5~11g/dL未満
妊娠中の基準値が低いのは、妊娠中には血液の液体成分(血漿)が増え、結果としてヘモグロビン濃度が多少薄くなるのが普通だからです。
妊娠中はヘモグロビンが少なくていいという意味ではなく、来たる出産での出血に備えて、生理的に血液量が増えてヘモグロビン濃度が薄くなっているのです。
これらの基準値は、ヘモグロビンの平均値から見た1つの目安です。ヘモグロビン濃度には個人差があるため、普段の量と比較し、急に2g/dL以上の減少が見られた場合は、基準値内であっても貧血状態が疑われることもあります。
基準値は人種や状況によって多少前後することがありますが、ゆっくりと貧血が進行した場合に症状を自覚できるのが遅れることは少なくありません。ただし7~8g/dLを下回った貧血は、早急な検査や対応が必要になります。
そのように、貧血は進行しなければ自覚が持てないことも多いため、とくに貧血の傾向がある方は、定期的な血液検査でのチェックが奨められます。
血液検査からわかる貧血のタイプ
ヘモグロビン濃度が減った貧血状態は、
- 赤血球自体の重量(数や大きさ)が減少している
- 赤血球内のヘモグロビンが薄くなっている
のいずれかが考えられます。
赤血球のサイズによって、貧血を以下の3つのタイプに分けることができます。貧血が認められた場合、まずはここからみていきます。
- 小球性貧血
赤血球のサイズが普通より小さい。赤血球をつくる鉄などの栄養素が不足するとおこる。 - 大球性貧血
赤血球のサイズが普通より大きいが、全体量は不足している。赤血球細胞のDNA合成に関わる葉酸やビタミンB12の不足でよく見られる。 - 正球性貧血
赤血球自体は正常だが、全体量が不足している。溶血などで赤血球が多く失われている疑いがある。
サイズの目安となるのは、MCV(平均赤血球容積:Ht/RBC×10)という値になります。
これによって、赤血球1つあたりの大きさがわかります。検査機関によっても検査基準値が異なりますが、およそ80~100の間が正球性となります。
また、ヘモグロビンの濃さから2つに分類できます。
- 低色素性貧血
赤血球の体積あたりのヘモグロビン重量が少ない。小球性貧血とセットでおこりやすい。 - 正式素性貧血
赤血球の体積あたりのヘモグロビン濃度は正常だが、全体量が不足している。正球性貧血と同様に、何らかの原因で赤血球が失われている可能性がある。
ヘモグロビンの濃さの目安となるのは、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度:Hb/Ht×10)という値になります。
これによって、赤血球全体に含まれるヘモグロビン濃度がわかります。こちらも検査基準値が医療機関によって異なりますが、およそ31~36の間が正色素性となります。
貧血の診断につかわれる所見や検査
このように貧血かどうかは、血液検査で調べられます。
- 血中ヘモグロビン濃度(Hb)が基準値以下
なら貧血と判断できます。
ヘモグロビン濃度によって貧血が認められたら、次はその原因を調べます。貧血の原因は実に多彩で、原因によって治療方法も異なりますので、何が原因によって貧血がおこっているかが重要です。
患者さんの症状や生活状況や病歴を聞き取り、血液検査に他の項目を追加して考えられる貧血の原因を推測した後、より詳細な検査を行うこともあります。
原因を推測するのに役立つ情報
- 自覚症状
- 顔色や眼瞼結膜
- 月経、妊娠の状態(女性)
- 持病、病歴
- 飲んでいる薬
- 食事の状態
これらの情報は、貧血の原因を推測するのに役立ちます。
原因判別のための血液検査項目
血清鉄(Fe)
血清とは、血液の中の液体成分のことです。血清鉄(Fe)は、その液体成分である血清中に含まれる鉄分になります。血清鉄が低下している貧血ばかりではなくて、原因によっては増加します。
血清鉄が低下している場合は、鉄欠乏性貧血が一番多いですが、貯蔵鉄の利用障害(炎症性貧血)や消耗性疾患(悪性腫瘍など)、赤血球増加症などがあります。
血清鉄が増加している場合は、鉄利用障害(再生不良性貧血)や鉄過剰状態(ヘモクロマトーシスや悪性貧血)など
体内の貯蔵鉄の量を示しています。つまり、鉄分の貯金になります。鉄欠乏性の貧血で低値になります。 血清中の鉄は、すべてトランスフェリンと呼ばれる血清蛋白とくっついて存在しています。UIBCは、トランスフェリンと結合していない鉄の量を意味しています。鉄を欲している状態かどうかがわかる指標になります。 網赤血球とは若い赤血球のことで、血液を作ろうと頑張っているかどうかが反映されます。 骨髄での造血機能が弱くなると減少します。網赤血球数が少ない貧血状態なら造血機能の異常を疑い、多い状態なら慢性出血や溶血の可能性が疑われます。 葉酸やビタミンB12は、赤血球を造るときに必要なビタミンです。不足してしまうとDNAの合成がうまくいかなくなってしまい、赤血球の元となる赤芽球が正常に作れなくなって異常な巨赤芽球が作られます。 このため、巨赤芽球性貧血と呼ばれる大球性貧血となってしまいます。 例えば、胃を切除した後はビタミンの吸収がうまくできなくなって生じることがあります。 それ以外にも、萎縮性胃炎によって胃粘膜の内因子が不足してしまうと、ビタミンB12をうまく吸収できなくなってしまいます。このような貧血を悪性貧血といいます。 1dLあたりの赤血球数です。 赤血球数が正常なのに貧血の場合、鉄欠乏などで小さく低色素の赤血球ばかりになっている可能性があります。 血液全体に対する血球成分の体積の占める割合を示しています。血球成分は95%程度が赤血球によるため、血液内の赤血球の割合を示す数値と見ることができます。 ヘモグロビンや赤血球数、ヘマトクリットなどから計算して求めることができる指標のことを赤血球恒数といいます。 MCVは、ヘマクリット値を赤血球数で割って算出した数値に10をかけて求めます。 低値なら鉄欠乏などの小球性や低色素性の貧血、高値ならビタミンB12や葉酸不足などで見られる巨赤芽球性貧血が考えられます。上述しましたが、貧血の原因を考えるときに重要な指標です。 MCHCも赤血球恒数のひとつで、ヘモグロビン濃度を赤血球数で割って10をかけて求めます。低値なら鉄欠乏など低色素性、正常範囲ならその他の原因が考えられます。 そもそもの原因を推測するのに、このような検査を行うことがあります。血清フェリチン値
不飽和鉄結合能(UIBC)
網赤血球数
葉酸・ビタミンB12
赤血球数(RBC)
ヘマトクリット(Ht)
平均赤血球容積(MCV)
平均赤血球ヘモグロビン量(MCHC)
原因判別のために行う検査の例
→婦人科での超音波検査
→上部内視鏡(胃カメラ)
→便潜血(検便)や下部内視鏡(大腸カメラ)
→下部内視鏡
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2022年10月1日
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