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寒冷凝集素症(CAD)の症状・診断・治療
寒冷凝集素症(CAD)とは
身体が体温以下の低温にさらされることをきっかけに、血液中の赤血球同士が集まって固まったり(凝集)、赤血球が破壊されたり(溶血)する病気です。
寒冷凝集素症では、赤血球が凝集を起こすことで体内の細い血管を詰まらせたり、赤血球が破壊され数が減少したりするので、貧血などの症状を呈します。
この凝集や溶血が起こる原因に自己抗体が関係しているので、寒冷凝集素症は自己免疫性溶血性貧血(AIHA)のひとつとして考えられています。
ちなみに、この自己免疫性溶血性貧血では、反応する温度によって温式AIHAと冷式AIHAがあり、寒冷凝集素症は冷式AIHAに分類されます。
自己免疫疾患としての溶血性貧血
先ほど、寒冷凝集素症は自己抗体が関係していると説明しました。少し専門的になりますが、この病気の成り立ちや病態について解説したいと思います。
私たちの身体には免疫系という仕組みがあり、異物が体内に侵入してくると敵とみなして攻撃をするようになっています。正常な免疫系では自己を攻撃することはありません。
攻撃の方法には、飛び道具(抗体)を使ったり、免疫系の中心である単球が敵(抗原)を食べたりする(貪食)方法があります。
また、赤血球は酸素運搬の役割をもつ細胞で、約120日間体内を循環すると脾臓や肝臓などで破壊されます。
生理的寿命(約120日)を迎える前に破壊されることを、「溶血」といい、本来は脾臓や肝臓などの臓器(=血管外)で破壊されますが、何かしらの理由で血管内にて生理的寿命を迎える前に破壊されることを、「血管内溶血」といいます。
寒冷凝集素症は、寒冷凝集の性質を持つ抗体のIgMが過剰に産生されることが、病態の主な原因と考えられます。
通常のIgMは寒冷凝集の性質を持たないことが多いので、寒冷凝集の性質をもつIgMは異常な性質とみなされます。
抗体は本来B細胞から産生されるので、この疾患の背景にはB細胞が異常増殖するクローン性リンパ腫増殖疾患といったB細胞由来の異常が考えられます。
寒冷凝集素症の発症の流れは、
- 身体の末梢(手足や顔・鼻など)が低温にさらされると、寒冷凝集の性質を持ったIgMが活性化し、赤血球に結合することで発症します。
- 赤血球にこのIgMが結合すると赤血球同士がくっつくことになります(凝集)
- 活性化したIgMが赤血球に結合すると、抗体をサポートする役割の補体も一緒に赤血球に結合します。
- 末梢にあった血液が中枢に戻り温度が上がると、IgMは遊離し、補体のみが赤血球膜上に残り活性化します。
- 活性化した補体によって赤血球が破壊される(血管内溶血)か、補体が目印となり肝臓でクッパー細胞が貪食する(血管外溶血)という病態になります。
確かな原因は明確になっていませんが、抗体の量や質、遺伝、環境、その他健康状態など、多くの要因が相互作用し合い、疾患の発症や進行に影響を与えると考えられています。
寒冷凝集素症は稀な疾患であり、女性より男性に多く、高齢者に多いとされています。
寒冷凝集素症の症状と予後
寒冷凝集素症の症状
寒冷凝集素症の主な症状は、溶血によるものと、凝集による末梢循環障害になります。
寒冷凝集素症は発生の経緯から、続発性(二次性)と原発性(一次性)に分類されます。(詳細は後述)
現れる症状の程度は、続発性か原発性か、基礎疾患や基礎疾患の進行度合いなどで変わります。
具体的な症状としては、
溶血による…
- 貧血症状:顔色不良、息切れ、動悸、頻脈、労作時の易疲労感、全身倦怠感、脱力感、頭痛、めまいなど
- 黄疸
- ヘモグロビン尿:褐色尿
凝集による…
- 末梢循環障害:末梢(手足の指先、鼻尖、耳介)の冷えやチアノーゼ(青紫色の変色)、痛みやしびれなどの感覚異常、重篤な場合は壊死や潰瘍などが生じることも
寒冷凝集素症の発症が、基礎疾患となる悪性リンパ腫や悪性腫瘍などに関連して発症する場合もあります。
その場合は、上記の溶血と凝集による症状の他に、基礎疾患の症状が現れることもあります。
寒冷凝集素症の予後
寒冷凝集素症の予後は、続発性か原発性かで異なります。
特定の感染症の罹患後に発症となる続発性の場合は、急性な臨床経過を辿ります。凝集素となる抗体IgMは発症後 2~3 週でピークとなり、その後消退すると再燃はしません。
悪性リンパ腫や悪性腫瘍が寄与していると考えられている原発性の場合は、慢性な臨床経過を辿ります。経過の長さとしては非常に変動が大きく、数ヶ月から数年以上です。
このように変動が大きくなる理由には、基礎疾患となる悪性リンパ腫や悪性腫瘍の種類や進行度、さらにはそれらの疾患の治療の成果に大きく依存するからです。
ただし、原発性の寒冷凝集素症は基本的に高齢者に多く予後は楽観できないものの、自然寿命を著しく短縮するとは考えにくいとする報告もあります。
寒冷凝集素症の診断と分類
寒冷凝集素症の診断
厚生労働省が出している自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイドでは、診断までの流れを以下のように示しています。
直接クームス試験で陽性、寒冷凝集試験において低温で赤血球の凝集が認められると確定診断となります。
寒冷凝集素症の分類
寒冷凝集素症は、発生の経緯から、続発性(二次性)と原発性(一次性、特発性)に分類されます。
続発性(二次性)寒冷凝集素症
- 明確な原因疾患や背景疾患に基づいて発症するケースを指します。
- その原因としては、特定の感染症(EBウイルス、サイトメガロウイルス、マイコプラズマなど)やリウマチ性疾患、さらにはリンパ腫や慢性リンパ性白血病(CLL)などのクローン性リンパ増殖疾患、悪性腫瘍が挙げられます。
原発性(一次性、特発性)寒冷凝集素症
- 「原発性」は「特発性」とも言われ、高齢者に多く、直接的な原因や背景疾患が特定されていないものを指します。
他の疾患や原因と関連していない状態で、寒冷凝集素抗体の異常増加や関連する症状が見られる場合です。 - しかし、発症のメカニズムや背景にある疾患の特徴からクローン性のB細胞増殖(特に低悪性度リンパ腫やクローン性B細胞リンパ増殖疾患)や特定の骨髄異常が関与していることが示唆されることがあります。
- 治療は症状の程度や症状の進行に応じて選択されます。
寒冷凝集素症の治療法
寒冷凝集素症の治療において明確な標準治療は確立していません。貧血や抹消循環障害などの症状や、患者の全身状態に応じて治療を選択することになります。
治療方針は大まかに続発性か原発性かで異なりますが、共通して寒冷の回避が非常に重要となります。
寒冷の回避
服装や室温を調節し身体が冷えないようにします。
また水仕事や冷たいものに触れる際にゴム手袋をつける、氷を含まない、発熱時でも保冷剤を使用しないなど、生活習慣を工夫する必要があります。
続発性寒冷凝集素症の治療
- 多くの場合、経過観察し自然経軽快を待つのが主な治療となる
- 基礎となる疾患の治療が最優先となり、それに伴い寒冷凝集素症の症状も改善することが多い
- 重症の溶血を伴う場合や、他の症状が強く出る場合には、症状を緩和するための治療が必要となることもある
- リンパ腫に続発する場合は、化学療法を行う
原発性寒冷凝集素症の治療
寒冷回避を行っても臨床症状を伴う場合は、治療介入が検討されます。
- 原因となる基礎疾患(リンパ腫など)の治療
- 治療薬は大きく抗補体薬(スチムリマブ:商品名エジャイモ)とB細胞を標的としたものに分けられる
- 重度の貧血に対しては、輸血療法
抗補体薬であるスチムリマブは、補体の活性化を阻害する薬剤です。
主には補体の活性化で生じる血管内溶血の治療で用いられますが、補体の活性化が抑制されることで間接的に血管外溶血の抑制にも寄与すると考えられています。
B細胞を標的とした薬剤(リツキシマブ:商品目リツキシマブ)は分子標的薬の一種で、B細胞の無秩序な異常増殖を抑制する働きがあります。これにより抗体の産生量を減少させることを期待しています。
輸血を行う際は十分に加温しながら行う必要があります。輸血によって体内が冷却されると、注入された赤血球と本来からある患者の赤血球の両方で凝集反応が生じるからです。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年10月8日
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