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発作性夜間血色素尿症の症状・診断・治療

発作性夜間血色素尿症とは?

発作性夜間血色素尿症の症状診断治療について、精神科医が詳しく解説していきます。

発作性夜間血色素尿症(PNH)とは国の定める指定難病のひとつで、貧血症状を呈する疾患です。

貧血が起こる原因は、通常よりも早く赤血球の破壊が起こるためです。

発作性夜間血色素尿症では夜間(就寝時)に赤血球が壊されるため起床後の第一尿がコーラのような褐色尿(ヘモグロビン尿)という特徴的な症状が挙げられます。

赤血球とは?

発作性夜間血色素尿症についてお話しする前に、赤血球について簡単に説明しますね。

赤血球は、全身に酸素を運搬する役割をもつ細胞です。骨髄で産生され成熟する過程でヘモグロビンを合成し、効率的に酸素運搬ができるようになります。

生理的寿命は120日で、約120日間体内を循環した後、脾臓や肝臓などで破壊されます。破壊された赤血球は鉄などの一部は再利用され、残りは腎臓を経て排泄されます。

本来なら、赤血球は脾臓や肝臓などの臓器(=血管外)で破壊されますが、何かしらの理由で生理的寿命を迎える前に破壊されることがあります。

生理的寿命を迎える前に破壊されることを「溶血」といい、血管内にて溶血することを「血管内溶血」といいます。

アシドーシスから補体活性化し溶血へ

赤血球の基本的なことを説明したので、ここからは発作性夜間血色素尿症についてお話していきます。

発作性夜間血色素尿症の赤血球の破壊は、免疫細胞の一つである補体が活性化し、赤血球を攻撃することによって起こります。

補体が活性化する条件には、アシドーシス(血液が酸性に傾くこと)、感染症、手術などがあります。

夜間睡眠時には、呼吸数の減少によって血中二酸化炭素が上昇したり、腸蠕動運動の低下によって腸内細菌から発せられる毒素(エンドトキシン)が増加したりします。

このような血中二酸化炭素の上昇や、エンドトキシンの増加が身体をアシドーシスに傾かせることから、補体が活性化すると考えられています。

補体活性化するメカニズム

先ほどこの疾患は、「活性化した補体が赤血球を攻撃することで、赤血球が溶血する」と説明しました。

しかし、通常なら赤血球は補体に攻撃されない造りになっています。なぜなら、本来はGPIアンカーというタンパク質が補体からの攻撃を抑制する補体制御蛋白(CD55・CD59、ALP、AChE)を赤血球の膜上に繋ぎ留めているからです。

つまり発作性夜間血色素尿症では、本来赤血球の膜上にあるはずのGPIアンカーというタンパク質が欠損していることで、補体から攻撃され溶血を起こすという機序になります。

GPIアンカーの欠損は、GPI生成を支配する遺伝子であるPIG-A遺伝子の後天的異常によって生じますが、PIG-A遺伝子が後天的に異常を生じさせる原因は明らかになっていません。

PIG-A遺伝子の変異は骨髄幹細胞に特異的に起きます。GPIアンカー蛋白は白血球や血小板にも存在するので、赤血球だけでなく白血球や血小板など他の血液成分にも影響を及ぼします。

このため、発作性夜間血色素尿症では赤血球だけでなく、白血球や血小板といった血液細胞も補体の攻撃を受け易くなります。

発作性夜間血色素尿症の実際

このようなことから、後天性の骨髄不全疾患である再生不良性貧血や骨髄異形成症候群と相互移行する場合があります。

日本では血栓症症状が発現するのは稀ではありますが、血栓症は発作性夜間血色素尿症に特徴的な合併症でもあります。また急性白血病への移行も稀にあります。

発作性夜間血色素尿症は、子どもから高齢者まで全ての年代で発症します。男女差はなく、特に20~60歳代に多い傾向があります。

発作性夜間血色素尿症の症状と予後

発作性夜間血色素尿症の症状

発作性夜間血色素尿症は大きく以下の3つの症状に分けられます。

  1. 溶血性貧血
  2. 骨髄不全による造血障害
  3. 血栓症
1. 溶血性貧血
  • 貧血症状:顔色不良、息切れ、動悸、頻脈、労作時の易疲労感、全身倦怠感、脱力感、頭痛、めまいなど
  • 黄疸
  • 早朝褐色尿

貧血はゆっくり進行するので、身体がその状態に慣れてしまうと貧血症状の自覚に乏しいことがあります。

赤血球が破壊された際には内部にあったヘモグロビンが放出されます。

ヘモグロビンが代謝されると間接ビリルビンが増加し黄疸として現れます。代謝されなかったヘモグロビンは腎臓で濾過されます。

再吸収されなかったヘモグロビンはそのまま尿中に排出されるので、コーラのような色の褐色尿となります。

早朝褐色尿は発作性夜間血色素尿症の特徴的な症状と言えますが、実際には患者の30%にしか認められません。

2. 骨髄不全による造血障害
  • 易感染性:感染症の頻発(肺炎、尿路感染症、皮膚感染など)、発熱
  • 出血傾向:皮下出血、鼻出血、歯ぐきからの出血、月経異常など

骨髄不全による造血障害が起こると、白血球や血小板が生成されなくなります。白血球数が少なくなると、抵抗力が弱まるため感染しやすくなります。

また血小板数が少なくなると、出血傾向がみられることがあります。

このため、すべての血球が減少する汎血球減少となっていきます。

3. 血栓症
  • 深部静脈血栓症:好発部位として、脳静脈、腸間膜静脈、肝静脈

血栓症は日本では発生頻度の少ない症状となりますが、海外では血栓症が臨床上重要な症状として認められています。
※動脈血栓症もときに認められます

これらの3つの主症状の他に、嚥下障害、男性機能不全、原因不明の腹痛等も発作性夜間血色素尿症の特徴的な症状と言われています。

発作性夜間血色素尿症の予後

発作性夜間血色素尿症は進行が極めて緩徐で、溶血発作を繰り返したり、溶血が持続したりしながら経過します。

日米比較調査によると5%の患者が自然寛解するという報告もあります。主な死因は、骨髄不全の進行によって3系統の血球減少に関連して、出血や感染によるものとなっています。

しかし、新薬のエクリズマブが補体の活性化を劇的に抑制することから、予後の改善が期待されています。

発作性夜間血色素尿症の診断と分類

発作性夜間血色素尿症の診断

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準と診療のガイドラインでは、診断までの流れを以下のように示しています。

診断と分類

フローサイトメトリーという検査によって1%以上のPNH型血球(CD55、CD59陰性血球)を認めると確定診断となります。

発作性夜間血色素尿症の分類

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準と診療のガイドラインでは、以下のように溶血所見に基づいて重症度分類しています。

重症度分類

発作性夜間血色素尿症の治療法

発作性夜間血色素尿症の治療は、基本的に発現している症状別(溶血性貧血、骨髄不全、血栓症)に対症療法を行います。

根治治療は骨髄移植しかありませんが、骨髄移植の明確な適応基準はなく重症例に対して行われます。

発作性夜間血色素尿症の治療では、これまで副腎皮質ステロイドが主として使用されていました。

しかし、補体の活性化を阻害するエクリズマブ(商品名:ソリリス)が開発され、発作性夜間血色素尿症の溶血に対する劇的な抑制効果が期待されています。

しかし、エクリズマブは骨髄不全に対しては効果がありません。骨髄不全の症状がある場合は、それに対する治療を行う必要があります。

溶血性貧血に対する治療

【慢性溶血】
  • エクリズマブ
  • 副腎皮質ステロイド
  • 輸血
  • 支持療法(葉酸・鉄剤など)
【溶血発作】
  • 腎障害予防として誘因除去
  • 副腎皮質ステロイドパルス
  • ハプトグロビン
  • 輸血・輸液、補液

※ハプトグロビンとは、溶血に伴う腎障害を予防するために用いられる薬剤です。

ハプトグロビンは、溶血によって赤血球内から放出されたヘモグロビンと結合して、正常な代謝経路である肝臓に運ぶ役割を担っています。

骨髄不全による造血障害に対する治療

再生不良性貧血の治療に準じた治療が行われます。

詳しくはこちら:再生不良性貧血(AA)の症状・診断・治療

血栓症に対する治療

【急性期】
  • 血栓溶解剤(t-PA)
  • ヘパリン
【予防投与】
  • ワルファリン

重症患者に対する治療

繰り返す溶血発作や強い慢性溶血、重度の骨髄不全、繰り返す血栓症など、生命予後に関わる状態が続く場合には、骨髄移植が行われます。

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カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年10月8日

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