赤芽球癆の症状・診断・治療

赤芽球癆とは?

赤芽球癆の症状診断治療について、血液専門医が詳しく解説していきます。

赤芽球癆(せきがきゅうろう)とは国の定める指定難病の一つで、貧血を主症状とした疾患です。

赤血球だけが造られなくなります。これは急性骨髄性白血病(AML)の一種として分類されることが多く、通常、成人に見られます。

ちなみに赤芽球とは、赤血球前駆体のことを指していて、赤血球になる前の段階の細胞です。また「癆(ろう)」とは、”やせ衰えること”また、その病気を意味しています。

つまり、赤芽球癆では、この赤芽球が何らかの原因で異常に減少することで、最終的に赤血球が造られなくなるという成り立ちとなります。

日本血液学会によると、赤芽球癆は2006年度から2013年度の8年間に合計425例、最近では1年間の新規患者数は約100人と少なく稀な疾患です。

赤芽球癆のほとんどが、成人に見られる後天性の赤芽球癆となります。

先天性赤芽球癆の場合原因が遺伝子異常によるものと考えられていて、Diamond-Blackfan 貧血とも呼ばれます。

後天性赤芽球癆の場合原因は様々あり、薬物、自己免疫疾患、感染症(バルボウイルスB19感染)、悪性腫瘍などが挙げられます。

赤芽球癆の症状と予後

赤芽球癆の症状

赤芽球癆の症状は貧血に伴うものがほとんどで、具体的な自覚症状としては以下のようになります。

  • 全身倦怠感(だるい)
  • 易疲労感(疲れやすい)
  • 動悸
  • めまい
  • 立ちくらみ・ふらつき
  • 息切れ
  • 顔面蒼白
  • 頭痛 など

赤芽球癆の予後

赤芽球癆診療の参照ガイド改訂版(第 7 版)によると、特発性赤芽球癆の予測平均生存期間約17.7年胸腺腫関連赤芽球癆および大型顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆の予測生存期間中央値約11~12年とされています。

主な死因は感染症と臓器不全で、慢性赤芽球癆の生存に関する予後不良因子は治療後の貧血再発であることも明らかとなりました。

赤芽球癆の診断と分類

赤芽球癆の診断

赤芽球癆は血液検査によって以下の①②③の状態が証明されれば、診断されます。

末梢血液学的検査で正球性正色素性貧血(血中ヘモグロビン濃度が10.0g/dL未満の貧血)

網赤血球の減少(網赤血球が1%未満)

骨髄で赤芽球の明らかな減少(骨髄赤芽球が5%未満)

正球性正色素性貧血とは、赤血球の形状(球状)や色(ヘモグロビンの含有量)が正常にもかかわらず、赤血球の総数が減少している状態

網赤血球とは、赤芽球から赤血球になる途中の段階の細胞

赤芽球癆の分類

赤芽球癆は大きく以下の様に分類されます。

1.赤芽球癆・分類

成人で見られる赤芽球癆の多くは後天性です。先天性の場合は原因が遺伝子異常によるものと考えられていて、Diamond-Blackfan 貧血とも呼ばれます。

赤芽球癆診療の参照ガイドでは、後天性赤芽球癆の病型診断の流れを以下の様に示しています。

2.赤芽球癆・診断の流れ

病型は大きく以下の様に分類されます。

  • 特発性
  • 胸腺腫
  • 大型顆粒球リンパ性白血病
  • その他のリンパ系腫瘍
  • 自己免疫疾患、固形腫瘍
  • パルボウイルスB19感染症
  • 薬剤性  など

後天性赤芽球癆はいくつかの病型に診断されますが、診断に至る原因には、薬物、自己免疫疾患、感染症、悪性腫瘍などが挙げられます。

赤芽球の治療法

赤芽球癆の具体的な治療について説明する前に、まず治療の概要についてお話しします。

後天性・慢性赤芽球癆の病型は多様であり、その原因によって治療が異なります。

しかしながら、罹患患者が少なく稀な疾患であるため、各治療についての効果や長期予後などについてはほとんど明らかになっていません

赤芽球癆診療の参照ガイドの病型別治療参照ガイドでは、後天性赤芽球癆の治療は、主に免疫抑制療法(副腎皮質ステロイド、シクロスポリン、シクロホスファミド)または各原因別に治療が行われます。

3.赤芽球癆・病型別治療参照ガイド

先に説明したように、成人で見られる赤芽球癆の多くは後天性で、後天性赤芽球癆はまず急性型と慢性型に大きく分類されます。

しかしながら、急性型か慢性型かに明確な基準があるわけではありません。

感染や薬剤が原因とされる場合は病状の経過から急性赤芽球癆と考えるのが妥当とされていて、治療後1~3週間で貧血の症状が改善されます。

感染や薬剤以外の原因が考えられる場合は、慢性赤芽球癆として治療が検討されます。

しかしながら、慢性赤芽球癆の1つである特発性(原因不明)の赤芽球癆10~15%で経過の途中で自然寛解するという報告もあるので、約1ヶ月は免疫抑制剤を用いた治療は控え、経過観察となります。

これらのことを踏まえ、治療方法は以下のようなものとなります。

  1. 急性赤芽球癆の治療
  2. 慢性赤芽球癆の治療
    ① 初期治療
    ② 免疫抑制剤を用いた治療
  3. 続発性赤芽球癆の治療
    ・胸腺腫
    ・悪性リンパ腫
    ・自己免疫疾患

1.急性赤芽球癆の治療

  • 被疑薬の中止、または他剤への変更
  • 感染症の治療

赤芽球癆と診断され感染や薬剤が原因とされる場合は、病状の経過から急性赤芽球癆と考えるのが妥当とされています。

まず全ての被疑薬を中止、中止が困難な場合は他の薬剤への変更を検討します。感染症の治療を行い感染が終息または、原因が除去されると治療後1~3週間で貧血の症状が改善されます。

2.慢性赤芽球癆の治療

①初期治療(赤血球輸血、鉄キレート療法)

重度の貧血があり、日常生活に支障を来している場合には赤血球輸血が考慮されます。

頻回に輸血をすると体内に鉄が過剰に蓄積され、肝臓や心臓に影響を与えます。頻回な輸血が必要な場合は、蓄積された鉄を排出するために鉄キレート療法も行う必要があります。

②免疫抑制剤を用いた治療

急性赤芽球癆の治療や慢性赤芽球癆の初期治療を行い、1ヶ月経っても貧血症状が改善されない場合は、免疫抑制剤を用いた治療が検討されます。

用いられる免疫抑制剤には、主に副腎皮質ステロイド、シクロスポリン、シクロホススファミドがあります。

【副腎皮質ステロイド】

赤芽球癆の治療において、副腎皮質ステロイドは一般的な第一選択治療として広く用いられています。

副腎皮質ステロイドは、強力な抗炎症および免疫抑制効果を持っています。これらは体内の免疫システムの活動を抑えることで、自己免疫疾患による組織の炎症と損傷を減少させます。

自己免疫疾患による赤芽球癆の場合、免疫系が誤って骨髄の赤芽球を攻撃すると考えられています。

このため、副腎皮質ステロイドによる免疫抑制効果が、赤芽球の生成を改善し、貧血の症状を緩和するとされています。

【シクロスポリン】

シクロスポリンは、免疫抑制薬の一つであり、免疫系の働きを抑えることでさまざまな自己免疫疾患や移植拒絶反応の治療に使用されます。

シクロスポリンが免疫系に作用することで、体が自己の組織を攻撃することを抑制します。

赤芽球癆の治療においては、特発性赤芽球癆や副腎皮質ステロイド治療に応答しない症例などでシクロスポリンが使用されます。

赤芽球癆の一部は自己免疫疾患の一種であり、免疫系が誤って赤芽球(赤血球の前駆細胞)を攻撃すると考えられています。

シクロスポリンはこの免疫反応を抑制することで、赤芽球の生成を改善し、貧血の症状を緩和することが期待されます。

ただし一部の患者では、シクロスポリンによる高血圧、腎臓の機能障害、感染症への抵抗力低下などの副作用が起こる可能性があります。

シクロスポリンを用いる場合はこのようなリスクを念頭におき、患者の状態をよく管理する必要があります。

【シクロホスファミド】

シクロスファミドは抗がん剤のひとつです。主にがんの治療に使われますが、免疫系に対する強力な抑制作用を持つことから一部の重篤な自己免疫疾患の治療にも用いられます。

赤芽球癆の治療においては、シクロホスファミドは一般的な初期治療ではありませんが、他の治療に抵抗性の赤芽球癆や再発性の赤芽球癆に対しては、シクロホスファミドを含む免疫抑制療法が選択されることがあります。

しかし、シクロホスファミドは副作用も起こしやすい薬物です。主な副作用には、吐き気、嘔吐、脱毛、口内炎、骨髄抑制(赤血球、白血球、血小板の生産が低下)、感染症に対する抵抗力の低下、不妊などがあります。

また、長期的な使用は膀胱炎や膀胱がんのリスクを高める可能性もあります。

シクロホスファミドを使用する際には患者の全体的な健康状態や他の治療選択肢を考慮した上で、医師による厳密なモニタリングが必要となります。

続発性赤芽球癆の治療

赤芽球癆は、腫瘍や自己免疫疾患などによって引き起こされる場合があり、このような場合は続発性赤芽球癆と呼ばれます。その治療法は基礎となる疾患の治療に依存します。

胸腺腫

胸腺腫は胸腺から発生する腫瘍で、これが赤芽球癆を引き起こすことがあります。治療としては、胸腺摘出術(胸腺全摘出)が一般的に行われます。

胸腺腫が原因である赤芽球癆は、胸腺摘出術後にしばしば改善されると報告されています。

胸腺摘出術後に貧血が改善しない場合や、胸腺腫が切除できない場合は、免疫抑制療法や化学療法が考慮されることもあります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は免疫系の細胞から発生するがんで、赤芽球癆を引き起こすことがあります。この場合の治療は、悪性リンパ腫そのものへの治療が中心となります。

化学療法や放射線療法、場合によっては骨髄移植などが行われます。これらの治療によって悪性リンパ腫がコントロールされると、赤芽球癆の症状も同時に改善されることが期待されます。

自己免疫疾患・固形腫瘍

自己免疫疾患全身性エリテマトーデス関節リウマチなど)や、固形腫瘍(例えば乳がんや肺がんなど)が赤芽球癆を引き起こす場合があります。

これらの疾患が原因となる赤芽球癆の治療は、基礎疾患そのものへの対処が中心となります。

具体的に、自己免疫疾患の場合は、免疫抑制薬(ステロイドやシクロスポリン、メトトレキサートなど)の投与や、病状によっては生物学的製剤の使用。

固形腫瘍の場合は、手術や化学療法、放射線療法、免疫療法などです。これらの治療が効果的であれば、赤芽球癆の症状も改善されます。

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医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
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カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年10月8日

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