本態性血小板血症の症状・診断・治療
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本態性血小板血症(ET)とは?
本態性血小板血症(ET)は、血球を造っている骨髄内の造血幹細胞に異常がおこり、血小板に育つ細胞が腫瘍化して増殖する血液の病気です。『骨髄増殖性腫瘍疾患』と呼ばれる中の1つです。
血液検査をすると血小板の激しい増加が認められますが、数だけではなく血小板の機能にも異常がみられ、白血球の増加を伴うことも多いです。
主な症状は血小板の増加による血栓傾向と、血小板機能の不足による出血傾向に分かれ、どちらの傾向が強いかは個人差があります。2つが合併することもあります。
腫瘍は基本的には良性ですが、他の部位にできた腫瘍と違って手術で取り除くことができず、重症度や血栓症のリスクに応じた薬でのコントロールが主な治療になります。
専門医の元で適切な治療や検査を続ければ、多くの患者さんでは日常生活や寿命に大きな影響はありません。
ですが、血栓症のリスクが極めて高い場合や、数%の悪性化するケースでは、脳梗塞や心筋梗塞、骨髄繊維症や白血病(血液のがん)へと進行することがあるため、注意が必要です。
悪性化したときは、抗がん剤治療や造血幹細胞移植などが検討されることもあります。
造血幹細胞とは?
造血幹細胞とは、赤血球・白血球・血小板すべての血球のベースとなる細胞です。造血を行う骨髄(骨の内部にあるスポンジ状の組織)に存在し、そこから細胞が様々な変化をくり返しながらそれぞれの血球へと成熟していきます。
血小板の成熟過程は、
- 造血幹細胞→前駆細胞→前巨核球→巨核球→血小板
となります。
この病気は、造血幹細胞が血小板に成熟する過程に異常がおこり、病的な細胞の塊(腫瘍)が著しく増加していく血液の病気です。
血中の血小板数が増えると同時に、骨髄内では血小板の元になる巨核球の増加や肥大化が認められます。
本態性血小板血症の症状
この病気の症状は
- 血小板の増加
が主ですが、
- 白血球の増加
もともなうことが多いです。
血小板は数の増加だけではなく、血小板の働きが低下し、血小板凝集能検査などで異常値がみられます。また、白血球の方も異常な細胞が確認されることもあります。
血小板は出血時に血液を固めて傷や出血を防ぐ役割があるため、その数や機能に異常がおこると
- 血栓ができやすくなる(血栓傾向)
- 出血しやすくなる・血が止まりにくくなる(出血傾向)
という症状がおこります。どちらがおこるかは個人差があり、片方だけのときもあれば2つが合併することもあります。
出血傾向と血栓傾向という真逆の症状が同じ病気で発生するのは不思議ですが、血小板が増加すると最初は血が固まりやすくなって血栓傾向がみられ、血小板の増加が100万/μL以上になると血小板の凝固成分が不足し、出血傾向がみられるようになると言われています。
しかしながら、血栓傾向には血小板数よりも白血球数の増加が関わっているとする研究報告などもあり、他の因子や体質による違いもあるため、どちらの傾向が強くなるかの条件は一様ではなく個人差があります。
出血傾向が強い場合の自覚症状
- アザができやすくなる
- 鼻血や歯肉からの出血が増える
- けがをすると血が止まりにくくなる
- 脳出血
などがあります。
血栓症状が強い場合の自覚症状
- 頭痛
- 定まらない胸の痛み
- 視力障害、目がちかちかする
- 手足のしびれや感覚異常、マヒ
- 失神
- 皮膚に網状の赤みが見られる
- 脳梗塞
- 心筋梗塞
などがあります。
血栓傾向が強いと脳や全身に血液が巡りにくくなり、一時的な脳機能障害や手足のしびれなどがおこることがあります。
その他の症状
- 全身の倦怠感
- 脾臓(ひぞう)の腫れ
- 脾臓の腫れによる左わき腹の違和感・痛み
などの症状がありますが、軽度の場合は自覚症状がとくにない患者さんもいます。
急性悪化したときの症状
この病気は薬でコントロールしていれば急性悪化することは少ないですが、まれに急速な進行をみせることがあります。
その場合の症状は、
- 貧血による動悸・息切れ・全身のだるさなど
- 感染による発熱など
- 脾臓の腫れがひどくなる
などの症状がみられます。
この状態で血液中に未熟な白血球細胞や赤血球細胞が出現したり、涙滴状赤血球が確認されるようになると、骨髄線維症への移行を疑います。白血病細胞が急に増加してきた場合は急性白血病への進行を疑います。
本態性血小板血症の原因
この病気では、80~90%の患者さんに何らかの遺伝子変異が認められます。
そのため、遺伝子の異常が発症に関わっていると考えられていますが、なぜ、どのようにして遺伝子に変異がおこるのかはわかっておらず、特別な変異がみられない患者さんもいることから、詳しい原因についてはいまだ不明です。
異常のおこっている遺伝子も患者さんによって異なります。
- JAK2遺伝子変異(JAK2 V617F):約50%
- CALR遺伝子変異:約20%~30%
- MPL遺伝子変異:約1~3%
遺伝子は、細胞が成熟していくための設計図のようなものです。
その情報に沿ってそれぞれの細胞にふさわしい変化や増殖を行っているのですが、それに変異がおきると細胞の成熟や増殖の過程が狂ってしまい、正常な細胞が育たなくなったり、異常な細胞が病的に増殖をくり返してしまったりすることになります。
遺伝子の変異は、がんを始め多くの重大な病気に関わっていると考えられていますが、なぜ突然変異がおこってしまうのかまでは不明な部分が多く、研究が進められています。
遺伝子異常とその特徴
本態性血小板血症での遺伝子の変異は生まれつきのものではなく、後から発生した何らかの変異であり、親から子へ遺伝する遺伝性の病気ではありません。しかしながらそれも諸説あり、詳細はわかっていません。
約半数の患者さんで確認されるJAK2遺伝子のJAK2V617Fへの変異は、真性多血症という病気ではほとんどの患者さんにおこる遺伝子変異で、細胞の異常な増殖に関わるとされています。
真性多血症も血液幹細胞の異常な増殖が原因の血液の病気ですが、主に赤血球が激しく増加します。多くは白血球や血小板の増加もともないます。
本態性血小板血症のうちJAK2V617変異のある患者さんでは赤血球が増加していることも多く、真性多血症に近いケースも確認されます。
そのためこの2つは本質的に同じ原因による病気ではないかという見方もされていますが、一方で本体性血小板血症では半数の患者さんにはその変異が認めらません。本態性血小板血症の中には、異なる原因や発生経路によるものが混合しているのではないかとも考えられています。
本態性血小板血症になりやすい年齢や性別
この病気の発症率は10万に1~2.5人と推定されており、比較的まれな病気です。
患者さんの平均年齢(診断時)は60歳ですが、40歳未満の患者さんが10~25%を占めています。男女比は1:1~2とやや女性が多い傾向で、とくに30代の女性に多くみられます。子どもでは極めてまれです。
本態性血小板血症(ET)の診断と検査
病気の確定診断のためには、血液検査と骨髄生検を行います。
最初に行うのは血液検査です。血液検査でこの病気が疑われた場合は、確定診断と他の類似疾患との判別のために骨髄の検査が必要になります。
骨髄生検とは、骨髄の一部を体内から取り出しその組織を調べる検査です。実際の方法は麻酔をし、太い針を使って左右の腸骨どちらかの骨髄の一部をくりぬきます。その検査自体は10分程度で終わります。
この病気の本質は骨髄での造血幹細胞の異常にあるため、骨髄の状態を調べる骨髄検査はかかせません。同じように骨髄で造血幹細胞の異常と増殖がおこる骨髄繊維症や慢性骨髄性白血病との判別のためにも必須です。
また、末梢血や骨髄の遺伝子検査や、脾臓の腫れを確認するための超音波(エコー)検査やCT検査も行われることがあります。
本態性血小板血症の診断基準
現在の診断は、2016年に発表されたWHO(世界保健機構)分類の第4版改定版の診断基準に沿って行われています。
- 45万/μL以上の血小板増加が持続すること
- 大型の巨核球(骨髄の中で血小板の元になるもの)が増えていること
- 何らかの染色体異常や遺伝子異常を認めること
- 他の病気に合併した反応性(二次性)の血小板増加ではないこと
【参考】判別の必要な病気
腫瘍性の血小板増加を起こす可能性のある病気は本態性血小板血症だけではありません。この他に、
- 一部の慢性骨髄性白血病
- 骨髄線維症
- 真性多血症
などがあり、判別が必要です。
慢性骨髄性白血病との判別は、染色体や遺伝子の状態など
を調べます。
本態性血小板血症では慢性骨髄性白血病に特徴的なフィラデルフィア染色体およびBCR/ABL遺伝子を認めず、好中球アルカリフォスファターゼ活性が低下しません。
骨髄線維症との判別は、骨髄生検によって骨髄の繊維化の有無を確かめます。
真性多血症との判別は、循環赤血球量などにより判断できます。
欧米のデータでは、骨髄線維症への移行は4~9%、急性白血病への移行は約1%と報告されています。
本態性血小板血症の治療
この病気の治療は、症状や血栓症のリスクに応じ、薬で血小板数と働きをコントロールすることが主です。
血小板数の増加が軽度で血栓症のリスクや他の症状がとくに強くないときは、経過観察だけをして様子をみることもあります。
重症度や血栓症を引き起こすリスクによって、お薬を使い分けていきます。目的は血小板数のコントロールで、中程度のリスクであれば抗血小板薬、高リスクであれば抗腫瘍薬を使っていきます。
造血幹細胞移植を行えば病気そのものが治癒する可能性はありますが、非常に大がかりな治療のため、その適応は急性白血病や骨髄線維症に移行した重症例に限られています。
この病気は、血小板のコントロールさえ上手くできれば生活や寿命は健常な方と変わりありません。
注意が必要なのは血栓傾向が強い方の脳梗塞・心筋梗塞などの合併症です。血栓リスクの高い場合は薬を指示通りに飲み、肥満防止や禁煙などの生活習慣によって血栓症を予防していくことが大切です。
低リスクの場合
- 40歳以下で血栓症の病歴がない
- 血小板数100万/µL以下
- 血栓傾向・出血傾向ともに症状があまりみられない
→薬を使わず経過観察をすることも多い
年齢が若く、血栓症のリスクや出血症状などの問題がさほど強くはなく、血小板数の増加も比較的軽いときには経過観察だけで様子を見ることもあります。
しかしながら、ときの経過とともに症状がどうなるかはわからないため、定期的な通院と血液検査を行い、病気の進行を確認していくことが大切です。
中リスクの場合
- 40歳~60歳で血栓症の病歴がない
- 血小板数や症状が中程度
→抗血小板薬の服用
年齢が40歳を過ぎると普通の人でも血栓ができやすくなるため、40歳を超えた方は薬を使って血栓の予防を行うことが多くなっています。使う薬は『抗血小板薬』という系列の薬です。
- アスピリン(商品名:バイアスピリン)
- チクロピジン(商品名:パナルジン)
などがあります。
アスピリンは、一般的には解熱・鎮痛剤として知られていますが、低用量で使用すると抗血小板作用を発揮する特徴があります。
高リスクの場合
- 60歳以上
- 年齢にかかわらず血栓症の病歴がある
- 血小板数が100万μlを超える
→経口抗腫瘍薬の服用
血栓による重大な合併症を起こす危険性が高い例では、血小板数のコントロールを目的に『抗腫瘍薬』の服用による治療を行います。抗血小板剤が併用されることもあります。
一般的によく使用されるのは
- ハイドロキシウレア(商品名:ハイドレア)
です。
その他、
- ブスルファン(商品名:マブリン)
- ラニムスチン(商品名:サイメリン)
などの種類があります。
これらの薬は、妊娠中の女性には使うことができません。また、男性の場合は精子を減少させる可能性があると言われています。妊娠を希望するときは主治医と相談のうえ、治療方針の変更や対応が必要になります。
欧米では、
- アナグレリド(商品名:アグリリン)
という薬が広く用いられています。日本でも2014年9月に承認され、アナグレリドが服用できるようになりました。
アナグレリドは血小板の元になる巨核球の成熟や、血小板の放出を抑制して血小板の数を減少させ、長期持続して血小板を減少させる効果が期待できる薬です。
また抗腫瘍薬の副作用である白血病の誘発が認められていません。主な副作用としては貧血、頭痛、動悸、下痢、末梢性浮腫などがみられますが、国内の臨床試験において発現した副作用の多くは、軽度~中等度だと報告されています。
その他の治療
この病気の治療の中心は飲み薬による治療になります。
ですが、骨髄繊維症や白血病への進行がみられる重症例や、薬の効果が上手く現れないケースや使えないケースでは、抗がん治療、インターフェロン治療、造血幹細胞移植などが検討されることもあります。
本態性血小板血症の4つの注意点
この病気では、仕事、食事、運動など日常生活についての制限はほとんどありませんが、血栓症のリスクを低めるための生活習慣や、出血傾向が強いときはケガに気をつけるなどの心がけが望まれます。
また、自覚症状や治療の有無にかかわらず、専門医の元へ定期的に通院し、血液検査と経過観察を受けることが大切です。
ここでは、本態性血小板血症の方に気を付けていただきたい4つの注意点をお伝えします。
- 閉経後のホルモン補充療法が向かない
閉経後に行うホルモン補充療法は、副作用として深部静脈血栓症のリスクが高まることが報告されています。血栓のできやすい本態性血小板血症の方は、受けない方が安心とされています。
- 高血圧、糖尿病、高脂血症を予防しコントロールする
この病気では普通の人より血栓のリスクが高まるため、一般的な血栓予防対策も必要です。高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病は、血栓症のリスクを高めます。
- 肥満に注意する
>肥満も危険因子の大きな1つです。脂質や糖質の過剰に注意し、野菜や魚などを中心に栄養バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動をし、適正体重を維持しましょう。
- 禁煙する
血栓症のリスクは喫煙で、喫煙で4倍高まると報告されています。この病気の人には禁煙が強く推奨されています。
本態性血小板血症と妊娠・出産
本態性血小板血症の女性が妊娠した場合、妊娠中には血小板数が低下し、正常値になったケースが報告されています。ただし、薬による副作用や出産へのリスクがあるため、妊娠を希望する方は主治医とよく相談することが大切です。
治療で抗腫瘍薬(主にハイドロキシカルバミド)を服用中は、男女問わず避妊が推奨されています。
動物実験による胎児の奇形が報告されており、男性では精子の数が減少する可能性が指摘されています。
男女とも妊娠を希望する3~6ヵ月前にはヒドロキシカルバミド(商品名:ハイドレア)の服用を中止する必要があるため、妊娠を希望される方は主治医の先生とよく相談しましょう。
現在のところ、本態性血小板血症の妊婦さんに対する治療方針は確定しておらず、出産にもリスクがともなうことがあります。
適切な対策をしないまま通常妊娠・出産した場合、流産や死産・母体へのリスクは健康な女性の約3倍ともいわれています。
出産にあたって病状に応じた備えをしておけばそのリスクは低くなり、多くの方が無事に出産しています。そのため、この病気の方が妊娠・出産する際には、血液専門医との連携や緊急輸血などの取れる体制のある病院へ受診することが推奨されています。
本態性血小板血症の専門治療のご紹介
血液内科は専門性が非常に高く、治療が行えるクリニックは非常に限られています。
このため大きな病院に患者さんが集まっており、平日に通院し長時間待っての診察となっているのが現状です。
当院では周辺の大学病院や総合病院の血液内科専門医と協力し、専門的な治療と社会生活を両立できることをコンセプトに立ち上げました。
上野院だけでなく、神奈川の武蔵小杉院・元住吉院にて、血液内科専門医による外来を行っております。
- 大学病院:日本医科大学・順天堂大学・東京大学・慈恵会医科大学・昭和大学
- 総合病院:永寿総合病院・三井記念病院・NTT東日本関東病院・関東労災病院
お近くで本態性血小板血症でお悩みの方は、どうぞご相談ください。
また当法人への通院が困難な方につきましては、イシュランをご参照ください。
こちらでは、科学的根拠にもとづいた骨髄増殖性腫瘍(MPN)治療をおこなっている全国の病院や医師をご紹介しています。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
上野御徒町こころみクリニックでは、血液患者さんの治療と社会生活の両立を目指し、大学病院と夜間連携診療を行っています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2022年9月30日
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