脂質異常症の症状・診断・治療
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脂質異常症とは
脂質異常症とは、悪玉コレステロールや中性脂肪に異常が発生する病気です。
以前は高脂血症と呼ばれていましたが、2007年7月より脂質異常症に病名が変更されました。
悪玉コレステロールや中性脂肪の数値が高いことに加え、善玉コレステロールの数値が低くなってしまうことも問題となります。
脂質異常症は進行すると動脈硬化を引き起こすので、早めに治療することが大切です。
脂質異常症の症状と危険な合併症
脂質異常症と診断されても、目に見えてわかる症状はとくにありません。
症状が出ないため実感できず、放置してしまう方も多いでしょう。
しかし、脂質異常症の治療を怠ってしまうと動脈硬化が進行し、危険な合併症を引き起こす原因になってしまいます。
動脈硬化が進行すると動脈の血管が狭くなり、さまざまな組織がダメージを受けます。
また血管にできたコブ(プラーク)が破れ、血栓となり血管を詰まらせてしまうと、その影響を受けやすくなるのが心臓や脳です。
これらの病気は急激に進行するので命に関わり、後遺症が残ってしまうこともあります。
健康診断などで指摘された方は放置せず、医療機関を受診するようにしてください。
食後高脂血症にも要注意
近年では食後の中性脂肪高値に対し、食後高脂血症という病名がつけられ、動脈硬化に繋がることが問題視されています。
食後高脂血症である方は、中性脂肪のピークが通常よりも3~4時間ほど遅れて出現し、中性脂肪が下がりにくいことが明らかになりました。
中性脂肪が十分に下がっていない状態で次の食事を摂ると常に中性脂肪が高くなり、動脈硬化の原因になります。
中性脂肪が高い方は12時間以上の絶食をしっかり行い、再検査が必要になります。
水を飲むことは可能ですが、糖質の入った飲み物は避けるようにしましょう。
脂質異常症の診断基準
脂質異常症の診断に必要な数値は以下の4つです。
患者さんにより治療目標の数値が異なるので、まずはフローチャートをご紹介します。
2017年度の日本動脈硬化学会による診断基準ガイドラインは下記よりご確認ください。
脂質異常症の診断基準は以下の通りです。
しかし、一般的な採血でわかる数字は以下の3つとなります。
この3項目では問題となる悪玉コレステロール (LDL)は測定されません。
そのため、Friedewald式にて下記の計算式で算出していきます。
- TC-HDL-TG/5=LDL
食後の影響が大きく反映されるトリグリセリドの値を使用するため、食後に採血した数字だとLDLの値が通常よりも低い数値で出てくる可能性があります。
この式はTGが400以下の時のみ使用しますが、400以上の場合の式はTC-HDL=non HDLです。
non HDLは、「善玉コレステロール以外のコレステロール」数値を示しており、170mg/dL以上を高non HDL血症、150〜169mg/dLの場合を境界域non HDL血症と呼びます。
脂質異常症の疑いがあり再検査などを勧められた方は、空腹時に採血するのがお勧めです。
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療は、基本的に「食事療法」と「運動療法」が中心となりますが、さまざまな事情から取り組むことができない方もいらっしゃいます。
そのため、必要な方にはお薬の処方なども検討しつつ治療を行っていきます。
リスクによる脂質異常症の治療目標値
脂質異常症は患者さんにより、治療の目標値が異なります。
カテゴリーⅠ・Ⅱ・Ⅲは、下記項目と冠動脈疾患による死亡確率の統計に基づいて評価されます。
また、下記の項目に該当する方は、カテゴリーが1段階上がります。
10年間の冠動脈疾患によるカテゴリー別の死亡率は下記の通りです。
脂質異常症(高LDL血症)の薬物治療
脂質異常症の薬物治療は、数回だけ飲めば改善するというわけではなく、続けることが重要です。
まずは、悪玉コレステロール(LDL)を下げるスタチン系のお薬の全6種類を紹介していきます。
スタチン系
【ストロングスタチン】
- クレストール(一般名:ロスバスタチン)
- リピトール(一般名:アトルバスタチン)
- リバロ(一般名:ピタバスタチン)
【マイルドスタチン】
- メバロチン(一般名:プラバスタチン)
- ローコール(一般名:フルバスタチン)
- リポバス(一般名:シンバスタチン)
「高TG(中性脂肪)血症」「低HDL(善玉コレステロール)血症」など、脂質異常症にはさまざまなタイプがあり、それぞれの特徴を活かして選択していきます。
メバロチン以外のお薬は肝臓で代謝されるので、肝機能障害のある方には使用しづらいお薬です。
メバロチンは上記のお薬の中で唯一腎臓で代謝されるので、肝機能障害のある方でも比較的使いやすくなっています。
スタチン系のお薬の副作用には「肝機能障害」や「横紋筋融解症」がありますが、血液検査で調べることができます。
お薬の使い始めに副作用が出ることが多く、投与してから3か月以内に異常がなければ比較的安心に使用できるお薬です。
脂質異常症(高TG血症)の薬物治療
中性脂肪が高い方には、「フィブラート系」や「EPAやDHA(魚の脂)」を使用することが多いです。
スタチン系とフィブラート系の併用により、横紋筋融解症という副作用が増加する可能性が指摘され、併用が禁忌となっていました。
しかし、欧米での併用が可能になっていることを受け、2018年10月より原則禁忌が削除されています。
フィブラート系とEPA・DHA
EPA・DHAは以下のお薬が発売されています。
- エパデール(一般名:EPA)
- ロトリガ(一般名:EPA+DHA)
フィブラート系のお薬は、PPARα(ペルオキシソーム増殖剤応答性レセプターα)という受容体を活性化させ、HDLコレステロールを増加する作用があります。
お薬の種類は以下の3つです。
【マイルドスタチン】
- ベザトール(一般名:ベサフィブラート)
インスリン抵抗性を改善する作用が期待できるため、血糖のコントロールがしやすい。 - トライコア・リピディル(一般名:フェノフィブラート)
ベザフィブラートに比べ、中性脂肪を下げる効果が強い。 - パルモディア(一般名:ペマフィブラート)
従来のフィブラート系の薬剤よりも選択的に中性脂肪を下げたり、HDLコレステロールを増やす遺伝子の働きを強める。
肝臓や腎臓への負担を軽減する。
脂質異常症の食事療法
脂質異常症の治療には食事と運動に気を配る必要があります。
ですが、どんなことを行えばいいのかわからないという方が多いのではないでしょうか?
間違った方法で行っても努力が無駄になってしまうので、しっかり理解していきましょう。
はじめに、食事療法の重要なポイントからみていきましょう。
食事の量を制限する
まずは、1日に必要なカロリー摂取量を計算しましょう。
肥満である方は、標準体重の計算から行うようにしてください。
スナック菓子や甘いもの、炭水化物が好きな方は、簡単に適正カロリーをオーバーしてしまうので、なるべく控えるように心がけましょう。
飽和脂肪酸・コレステロールが高い食品は避ける
コレステロールの高い食品は、1日の適正カロリーの量にも影響を及ぼします。
コレステロールの他に、飽和脂肪酸の摂取も控えめにするとよいでしょう。
甘いもの・炭水化物を控える
脂質異常症は脂質を控えればいいというわけではありません。
脂質を控えていても、糖質の高い食品に偏ってしまうと脂質異常症だけでなく、糖尿病も併発します。
また、摂取した糖分はエネルギー源として消費されますが、余った分は肝臓で脂質異常症に関係するトリグリセリドに変換されてしまいます。
減塩を心がける
塩分はトリグリセリドを肝臓で合成を亢進する働きがあるため、脂質異常症を悪化させる可能性があります。
塩分の摂りすぎは脂質異常症だけでなく、動脈硬化を進行させ高血圧の原因にもなります。
1日の塩分摂取量の目安は6gとされていますが、日本の成人男性の平均塩分摂取量は11.1gといわれており、目安の2倍ほど摂取している人が多いのが現状です。
アルコールはなるべく控えめに
アルコールには、善玉コレステロール(HDL)を増加させる働きがある一方で、トリグリセリドを増加させてしまいます。
採血でトリグリセリドが高値だった方は、禁酒を心がけた方がよいでしょう。
アルコールの1日の推奨される摂取量は20〜25gと言われています。
お酒を我慢することは辛いことですが、トリグリセリドが正常な方は、下記の分量を参考に節酒を心がけましょう。
良質なタンパク質を摂取する
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減らし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やすためには、大豆製品や魚といった良質なタンパク質を適量摂取することが望ましいです。
下記の食品には、コレステロールを下げるといわれている不飽和脂肪酸が多く含まれています。
食物繊維を摂取する
食物繊維は、血管壁へのコレステロールの沈着を防ぐため、動脈硬化の防止に繋がります。
野菜に含まれるβカロテンやビタミンCは、LDLコレステロールの酸化を防止してくれるので、摂取量の目安350g以上の半分は緑黄色野菜から摂取することをおすすめします。
脂質異常症の運動療法
脂質異常症の運動療法には、無酸素運動ではなく、有酸素運動が推奨されています。
有酸素運動と無酸素運動の違いがわからない方は下記をご確認ください。
運動する時間の目安や頻度は下記の通りです。
しかし、これを継続できなければ意味がありません。
モチベーションを保つことが難しいと感じたら、ジムに通ったり、仕事帰りに一駅分歩いて帰るなどの工夫をしてみましょう。
また、高齢の方は無理してハードな運動を行ってしまうと、思わぬトラブルに発展する可能性があります。
主治医とよく相談し、無理をしすぎない程度に運動を行うようにしてください。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2022年11月25日
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