鉄欠乏性貧血の症状・診断・治療
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鉄欠乏性貧血とは?
鉄欠乏性貧血は、日本でもっとも多く見られる貧血です。
とくに月経のある年代の女性に多く、妊娠・授乳中にもよくおこります。また、男女関わらず成長期には鉄の必要量が増えるため、鉄欠乏性貧血がおこりやすいので注意が必要です。
立ちくらみや動悸といった典型的な症状だけでなく、イラストにあるような鉄欠乏性貧血特有の症状が認められることもあります。
赤血球中のヘモグロビンは、ヘムという鉄とグロビンというタンパク質が結合してつくられています。ヘモグロビンの赤茶っぽい色は鉄の色で、その大部分が鉄で構成されています。
小球性低色素性貧血と呼びます。
鉄欠乏性貧血では、何が原因で鉄欠乏がおこっているかの判別も重要です。単純な鉄の摂取不足なら鉄剤の内服で治療ができますし、食事改善やサプリも有効です。
慢性出血や他の病気が関わっているならそちらの治療が必要で、腸の吸収不全のある方では口からの補充が難しく、鉄剤の点滴が必要な場合もあります。
鉄が欠乏する原因
鉄欠乏の主な原因としては、
- 単純な鉄の摂取不足
- 過多月経や慢性出血
- 腸の吸収不全
があります。
鉄は、吸収の悪いミネラルです。摂取量の約10%程度しか腸で吸収されず、不足しやすい特徴があります。腸の働きの悪い方だと、さらに吸収量が低下します。
私たちの体内には、通常3~4gの鉄が様々な形態で存在していますが、毎日1mgくらいの鉄が自然に失われており、その分は日々の食事から補う必要があります。月経のある女性や成長期の10代の方なら、さらに鉄の必要量が増えます。
けれど、1mgの鉄を摂取するためには、10mgほどの鉄を吸収する必要があります。そこに慢性出血、成長期、妊娠・授乳など鉄の需要が増える因子があれば、なおさら積極的な摂取を心がけないといけません。
鉄欠乏性貧血の検査・診断
鉄欠乏性貧血では、ヘモグロビン濃度の低下に加え、
- MCV(赤血球の大きさを示す数値)が80以下
- 血清鉄が40μg/dl以下
- 血清フィリチン(体内の貯蔵鉄量を示す)が低下 12ng/mL未満
- TIBC(総鉄結合能)・UIBC(不飽和鉄結合能)が高値
などの数値を参考に診断をします。
鉄欠乏性貧血の治療
鉄欠乏性貧血の治療としては、鉄剤の投与が基本です。
鉄剤の副作用(吐き気)があって飲めない方・吸収障害のある方には、点滴で補充します。
慢性出血など他の原因がある場合は、そちらの治療も必要です。後述しますが、慢性出血を見逃さないことが非常に重要です。
具体的な鉄剤としては、以下のようなものが挙げられます。
- フェロミア
- フェルム(徐放剤)
- インクレミン(シロップ剤)
- フェロ–グラデュメット(徐放剤)
- フェジン(注射剤)
鉄剤には、吐き気や下痢、腹痛の副作用がおこりやすい難点があります。鉄剤を飲むと便が真っ黒になりますが、これは鉄の色が便に含まれているだけなので問題はありません。
鉄欠乏性貧血の再発予防
慢性出血や吸収不全などを伴わない鉄欠乏性貧血は、日々の食事の心がけが重要な予防策です。ただ、すでに貧血が進行してしまっていると食事改善だけでの対処は難しいため、病院での治療を受けながら、再発の予防として食事を改善していくことが奨められます。
鉄の所要量としては、1日10mgほどが目安です。そのうち10%の1mgが吸収されます。
鉄には動物性と植物性がありますが、動物性の鉄はヘム鉄と言って吸収性が良いのが特徴です。
赤身の肉・魚、内臓、貝類に多く含まれます。動物性食品にはタンパク質も豊富ですので、鉄欠乏貧血の方は毎日の食事にこまめに取り入れたい食品です。とくにレバーには、鉄以外にも貧血予防に役立つビタミンB12、葉酸、亜鉛などが豊富に含まれています。
ただ、動物性の食品ばかりで補おうとすればカロリーやコレステロールの問題がありますので、植物性の食品と合わせ、バランス良く摂取するようにしましょう。
植物性の鉄はビタミンCと合わせることで吸収が良くなります。また、鉄は必要以上の量を摂っても尿に排出されてしまいます。毎日バランス良く取り入れることが大切です。
また、緑茶や紅茶に含まれるタンニンには鉄の吸収を妨げる働きがあります。コップ1杯の適量なら問題はありませんが、食事と一緒にガブガブお茶を飲むのは控えましょう。
鉄欠乏性貧血では慢性出血を見逃さないことが重要
産生される赤血球量やヘモグロビン濃度は健常だったとしても、慢性的な出血が続いていれば貧血がおこります。慢性出血の原因となる病気には、
- 過多月経
- 子宮筋腫
- 子宮内膜症
- 痔
- 胃や腸の潰瘍やがん
などがあります。大きく分けて、
- 婦人科系
- 消化器系
の出血になります。
「出血」と言っても、外傷で明らかに血が出ているのを放置する人はいないと思います。
一時的なケガによる出血だけで、全身性貧血が持続することは通常ありません。多量に出血すれば一時的な貧血状態になるものの、止血・輸血など適切な対処をすれば、じきに回復します。
慢性的な貧血の原因となるのは、婦人科系と胃腸などの消化管からの慢性出血です。
婦人科系の出血
月経のある女性は毎月必ず出血をしますので、男性や閉経後の女性に比べると貧血になりやすい特徴があります。
それに加え、ホルモンの乱れによる月経過多、子宮筋腫や子宮内膜症を伴う多量出血、ダイエットや偏食による鉄やタンパク質の不足などがあると月経による貧血が進行します。
貧血とともに、
- 月経が28日よりずっと短い周期でおこる
- 出血が1週間以上止まらない
- 出血量が異常に多い
- レバーのような血の塊が出る
などの症状が見られれば、婦人科での検査が必要です。
月経のある女性は、男性や閉経後の女性より2倍近い鉄を消費しますので、積極的に鉄分を摂取する食生活を心がけることも大切です。
消化管出血や痔による出血
男性の方や閉経後の女性で多いのは、痔など肛門からの出血による貧血や、胃や腸など消化器の潰瘍やがんによる消化管出血による貧血です。とくに消化管出血は自覚が持てませんので、注意が必要です。
貧血とともに、
- 胃腸の不調
- 体重減少
- 胃潰瘍の病歴
- 血便(鮮血が混じる、便が黒くなる)
などの症状があれば、消化器の病気を疑い詳しい検査をします。
肛門からの出血も腸の病気が隠れている可能性があるため、安易に切れ痔と判断することはできません。便潜血の検査も必要に応じて行います。
出血性の貧血では、原因となっている病気の究明と治療が必要です。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2022年9月30日
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