インクレミンシロップ(一般名:溶性ピロリン酸第二鉄シロップ)の効果と副作用
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インクレミンシロップ(一般名:溶性ピロリン酸第二鉄シロップ)は、鉄欠乏性貧血に使用されるシロップ剤です。
経口鉄剤には「錠剤」「カプセル剤」など様々な形がありますが、その中でも唯一のシロップ剤として知られています。
今回はインクレミンシロップの効果や副作用について解説します。
インクレミンシロップとは?適応の病気について
インクレミンシロップは、鉄の補充を目的として使われるシロップ剤です。
経口鉄剤には「錠剤」「カプセル剤」など様々な形がありますが、その中でも唯一のシロップ剤として知られています。
インクレミンシロップの適応
インクレミンシロップ(一般名:溶性ピロリン酸第二鉄シロップ)の適応として、以下が認められています。
- 鉄欠乏性貧血
インクレミンシロップは、主に乳幼児や小児の鉄欠乏貧血に処方される薬剤です。
乳幼児・小児に対する薬は「錠剤は窒息の可能性がある」「体重や年齢で投与量が変わる」といった理由があり、シロップ剤や粉薬が選択されます。
インクレミンシロップは必ずしも子供にだけに処方されるのではなく、高齢の方で飲み込む力が弱くなっており、錠剤を内服するのが危険な場合も選択されます。
鉄欠乏性貧血に使われる経口薬は「錠剤」もありますが、消化管への刺激による胃腸障害が問題となる場合が多いです。
経口薬の中でもシロップ剤にあたるインクレミンシロップは、経口鉄剤の中でも比較的胃腸障害が起こりにくいとされています。
そのため、成人に対しても「吐き気」「ムカつき」などが強く錠剤での治療が続けられない場合は、インクレミンシロップに変更されることもあります。
インクレミンシロップの効果
インクレミンシロップを含む経口鉄剤は、体内に入ると腸管内で3価鉄から2価鉄に還元されて「腸管上皮細胞」に取り込まれます。
腸管上皮細胞からは、フェロポーチンと呼ばれるタンパク質を介して血管に放出され、鉄酸化酵素であるファスチンにより3価鉄に戻ります。
その後は、血液内の「鉄の運び屋」であるトランスフェリンに結合したのち、血液内を循環します。
血液内を循環したのちに、肝臓に取り込まれ貯蔵鉄となったり、骨髄に取り込まれてヘモグロビンの生成に利用されたりと鉄欠乏性貧血の改善に向かわせます。
インクレミンシロップの用法
インクレミンシロップ(一般名:溶性ピロリン酸第二鉄シロップ)の用法は、以下の通りです。
以下の量を1日量として、3〜4回に分けて経口投与する。
- 1歳未満:2~4ml(鉄として12~24㎎)
- 1~5歳:3~10ml(鉄として18~60㎎)
- 6~15歳:10~15ml(鉄として60~90㎎)
小児に対しては、年齢により投与量が変わります。
特に下痢や吐乳を起こしやすい新生児・乳児に投与する場合は、少量から開始し、様子を見ながら徐々に通常量まで増量します。
インクレミンシロップの味について、初めはサクランボ風味ですが、後味が少し悪く残りやすいです。
味が悪く飲めない場合は、リンゴジュースと一緒に飲むと軽減されます。
チョコレートアイスとの組み合わせも、インクレミンシロップの味が隠されるのでオススメです。
インクレミンシロップの飲み合わせについて、一部の抗生剤とはキレートを形成してしまい鉄・抗生剤ともに吸収が阻害されてしまうことが知られています。
また、タンニンを含む飲み物(緑茶・紅茶・コーヒーなど)とも相性が良くありませんので、同じタイミングで飲むのは控えましょう。
インクレミンシロップの副作用
インクレミンシロップの副作用について、承認時の集計対象となった150例においては特に報告は認められていません。
しかし、下記のような副作用が現れる可能性も考えられますので、その場合は医師・薬剤師に相談をしましょう。
- 消化器悪心:嘔吐・食欲不振・腹痛・下痢・便秘・胃部不快感
- 皮膚症状:光線過敏症・発疹・蕁麻疹・掻痒
また、インクレミンシロップを内服すると便が黒くなることが知られています。
腸管内で吸収されなかった鉄が便と一緒に排泄されるためです。
舌・歯などの口の中も、一時的に黒くなることもあります。
これらはインクレミンシロップ内に含まれる鉄による反応で、服薬が終了するともとの様子に戻ります。
特に体に対して害が起きているわけではありませんので、ご安心ください。
妊娠・授乳
インクレミンシロップは主に小児へ処方される薬剤のため、妊娠されている女性や授乳中の女性へ使われるケースは少ないです。
妊娠中・授乳中の方へは、多くの場合、フェロミア錠やフェロ・グラデュメットなど錠剤の形をした経口鉄剤が処方されます。
インクレミンシロップの保存方法
インクレミンシロップは、光に当たる場所に置いておくと薄黒色に変色してしまいます。
透明のボトルなど遮光性がない容器でインクレミンシロップを受け取った場合は、光に当たらないように保管しましょう。
冷蔵庫内での保存も構いませんが、0度を下回ると結晶が析出してしまいます。
ボトルにアルミホイルを巻いた状態での室温保管や、冷蔵庫の温度が下がりすぎない場所(扉の後ろなど)での保管を心がけましょう。
インクレミンシロップの薬価
インクレミンシロップは、一般名と名前が異なりますが後発品に分類される薬剤です。
下記に2023年4月現在の薬価を示します。
- 先発品:未発売
- 後発品(溶性ピロリン酸第二鉄シロップ):6.2円/ml
まとめ
- インクレミンシロップは、経口鉄剤の中でも唯一のシロップ剤です。
- 主に小児に使用されますが、嚥下能が低下している高齢の方、鉄剤での副作用が出やすい成人の方にも処方されます。
- インクレミンシロップの味が苦手な場合は、リンゴジュースやチョコレートアイスとの組み合わせがオススメです。
- インクレミンシロップは光により変色しますので、保管方法に気をつけましょう。
- インクレミンシロップの薬価は、1mlあたり6.2円です。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年11月2日
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