カイプロリス(一般名:カルフィルゾミブ)の効果と副作用

カイプロリス(一般名:カルフィルゾミブ)は、多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)に使われるプロテアソーム阻害薬(proteasome inhibitor:PI)です。

カイプロリスは注射薬であり、医療機関にて点滴静注の方法で投与を行います。

この記事では、カイプロリスの効果や副作用について解説していきます。

カイプロリスとは?

カイプロリスは、多発性骨髄腫(multiple myeloma:MMの治療に使われる薬剤です。

プロテアソーム阻害薬(proteasome inhibitor:PIに分類され、骨髄腫細胞内のタンパク質分解を妨げることにより、がん細胞増殖を抑制する働きをします。

プロテアソーム阻害薬は、カイプロリスの他に、内服薬の「ニンラーロ」、皮下注射薬の「ベルケイド」があります。

カイプロリスは、プロテアソーム阻害薬の中で唯一の点滴静注で投与する薬剤です。

カイプロリスの適応

カイプロリス(一般名:カルフィルゾミブ)の適応として、以下が認められています。

  • 再発または難治性の多発性骨髄腫

カイプロリスは、「多発性骨髄腫に対して別の治療法を行ったが十分な効果が得られなかった場合」「多発性骨髄腫が再発してしまった場合」に選択されます。

カイプロリスの効果

カイプロリスは、骨髄腫細胞内にある「プロテアソーム」の働きを阻害して効果を発揮する薬剤です。

体内の細胞内には、細胞増殖などの役割を終えたタンパク質を分解する「プロテアソーム」といった酵素が存在します。

このプロテアソームがいるおかげで、細胞内には不要なタンパク質が溜まらない仕組みとなっています。

プロテアソームは、正常な細胞のみならず、骨髄腫細胞のようながん細胞の中にも存在しています。

カイプロリスが体内に投与されると、骨髄腫細胞内にあるプロテアソームの働きが阻害されます。

骨髄腫細胞のプロテアソームが阻害されると、がん細胞内に不要なタンパク質が溜め込まれます。

その結果、骨髄腫細胞の細胞死を引き起こし、がん細胞の増殖を抑える方向に働きます。

カイプロリスの用法

カイプロリス(一般名:カルフィルゾミブ)の用法は、以下の通りです。

レナリドミド・デキサメタゾン併用

投与スケジュール
  • 1、2、8、9、15、16日目に投与後、12日間休薬
  • この28日間を1サイクルとし、12サイクルまで繰り返す
  • 13サイクル以降は、1、2、15、16日目に投与後、12日間休薬
投与方法
  • 10分かけて点滴静注

デキサメタゾン併用

投与スケジュール

     週2回投与の場合

  • 1、2、8、9、15、16日目に投与後、12日間休薬
  • この28日間を1サイクルとし、投与を繰り返す

     週1回投与の場合

  • 1、8、15日目に投与後、13日間休薬
  • この28日間を1サイクルとし、投与を繰り返す
投与方法
  • 30分かけて点滴静注

カイプロリスの副作用

カイプロリスの投与で特に注意すべき副作用が、「骨髄抑制」「高血圧」です。

「骨髄抑制」は、白血球・赤血球・血小板などの血球成分の数が減ってしまう状態です。

白血球が減ると「感染症」「発熱」、赤血球が減ると「貧血」、血小板が減ると「鼻血」「あざ」「出血」などが起こりえます。

カイプロリス投与中は、感染症予防を徹底したり、日常生活でもケガをしないようにしたりと気を付けながら生活をしましょう。

また、カイプロリスの投与では「高血圧」が比較的高い頻度で見られます。カイプロリスで治療している間は、ご自身でも定期的に血圧を測っておけると安心です。

高血圧が見られると、頭痛・耳鳴り・めまいなどの症状が見られます。

血圧が急激に上昇し、激しい頭痛・動悸・息切れなどにつながると「高血圧クリーゼ(高血圧緊急症)」といった緊急対応が必要な状態になります。

気になる症状が出ましたら、なるべく早く、医療機関へ相談をしましょう。

主な副作用と頻度

カイプロリスの副作用頻度は下記の通りです。

  • 心不全 :4.3%(61/1427例)
  • 心筋梗塞:1.5%(21/1427例)
  • 間質性肺疾患:1.1%(16/1427例)
  • 高血圧・高血圧クリーゼ:14.5%(207/1427例)
  • 急性腎障害:3.2%(/1427例)
  • 腫瘍崩壊症候群:1.0%(14/1427例)
  • Infusion reaction:23.2%(331/1427例)
  • 出 血 :3.9%(56/1427例)
  • 血液毒性:41.6%(594/1427例)
  • 静脈血栓塞栓症:5.9%(84/1427例)
  • 肝不全・肝機能障害:8.1%(115/1427例)
  • 感染症 :23.3%(332/1427例)

参考:カイプロリス点滴静注用10㎎、カイプロリス点滴静注用40㎎に係る医薬品リスク管理計画書

妊娠と授乳

カイプロリスについて、妊娠中・妊娠の可能性がある女性に対しての投与は禁止するよう定められています。

これは、非臨床試験(ウサギに対する試験)で、胎児死亡率の増加などが見られたためです。

男性に対しても、カイプロリス投与中~投与後の一定期間は避妊をするよう定められています。

授乳について「治療・母乳栄養の有益性を考慮し、授乳を継続するか、中止するかを検討すること」とされています。

これは、カイプロリス投与による乳汁中への移行の検討がなされていないため、このような注意喚起がなされています。

カイプロリスの薬価

カイプロリスの薬価は以下の通りです。※2023年5月現在

  • 先発品(カイプロリス点滴静注用):40㎎・87,852円、10㎎・24,426円
  • 後発品:未発売

まとめ

  • カイプロリスは再発・難治性の多発性骨髄腫に使われる治療薬です。
  • プロテアソーム阻害薬に分類され、骨髄腫細胞の増殖を抑制する方向に働きます。
  • カイプロリスの副作用で特に注意すべきものが「骨髄抑制」「高血圧」です。
  • カイプロリスの薬価は、40㎎が87,852円、10㎎が24,426円です。

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カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年6月15日

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