POEMS症候群の症状・診断・治療

POEMS症候群とは

POEMS症候群の症状診断治療について、血液専門医が解説します。

POEMS症候群とはとても稀な血液の病気で、現れる主な症状の頭文字をとって付けられています。

  • Polyneuropathy(多発性神経障害)
  • Organomegaly(臓器肥大)
  • Endocrinopathy(内分泌障害)
  • Monoclonal protein(モノクローナル蛋白)
  • Skin changes(皮膚変化)

Crow-Fukase症候群高月病などと説明されることもあり、これらは同じ病気ですが、発見者の名前や発見された地名からこのように呼ばれこともあります。

POEMS症候群は正確な原因は解明されていませんが、形質細胞の異常増殖が原因で生じる症状とされていて、形質細胞が産生するサイトカインや、サイトカインの上昇によって血管内増殖因子(VEGF)が症状の発症に影響を与えるものと考えられています。

それでは、形質細胞・サイトカイン・VEGFについて簡単に説明しますね。

まず、形質細胞とは免疫系の細胞で、体内に入ってきた異物を攻撃する抗体を造り出す細胞です。

形質細胞が増殖する原因は明らかになっていませんが、形質細胞が異常増殖すると、身体は異物が沢山入ってきたのだと勘違いし、全身に異物と戦えるように指令を伝達します。

その伝達役がサイトカインで、サイトカインは血流にのって全身を巡ります。

血管内皮増殖因子(VEGF)は様々な細胞から放出され、新しい血管を造ったり、血管の透過性を調整したりする役割をもっています。

血管の透過性が上がることで、血管内の抗体や物質を血管外の組織の隅々に行き渡らせるようになります。

本来なら、このような流れで私たちは異物から身体を守っているのですが、POEMS症候群ではこのサイトカインやVEGFが異常に産生されることで、神経障害、臓器肥大、内分泌障害、皮膚変化を起こすことになります。

POEMS症候群の症状と予後

POEMS症候群の症状

POEMS症候群の症状を発現させる正確なメカニズムは完全には理解されていませんが、以下の様に考えられています。

異常なレベルのサイトカインとVEGFによって

  • 末梢神経の異常な成長が引き起こされ、神経障害が生じる
  • 炎症反応、血管新生、細胞増殖が起こり、その影響が各臓器に及び臓器肥大が生じる(特に肝臓、脾臓、リンパ節の腫大)
  • 体のホルモン調節機構に影響が及び、内分泌異常が生じる
  • 血管新生や血管透過性の亢進が起こり、その影響が皮膚におよび皮膚変化が生じる

など複雑な疾患で、その病態には多くの要素が関与しています。

POEMS症候群の具体的な症状には以下のようなものがあります。

  • Polyneuropathy(多発性神経障害):手足の感覚異常・弱さ、しびれ感
    これはしばしばPOEMS症候群の最初の兆候で、徐々に悪化します。
  • Organomegaly(臓器肥大):肝臓、脾臓、リンパ節の腫大
  • Endocrinopathy(内分泌障害):糖尿病、甲状腺機能低下症(低甲状腺)、性機能低下などの内分泌異常
  • Monoclonal protein(モノクローナル蛋白):血液や尿中に特定のタイプの異常な抗体(モノクローナル蛋白またはMタンパク質)の出現
  •  ※モノクローナル蛋白またはMタンパク質とは、異物を攻撃する能力の無い抗体のことを言います。

     多発性骨髄腫やPOEMS症候群では、このモノクローナル蛋白の出現が特徴的な所見とされていて、正常な免疫反応を引き起こさず、むしろ疾患の病態を引き起こすと考えられています。

  • Skin changes(皮膚変化):色素沈着、厚化、乾燥、発汗異常などの皮膚変化

さらに、他にも腹水(腹部に液体がたまる)や足のむくみ、疲労感、体重増加などの症状が見られることもあります。

POEMS症候群の予後

POEMS症候群は治療しないと予後は不良で、全身性浮腫による心不全、心膜液貯留による心タンポナーデ、胸水による呼吸不全、感染、血管内凝固症候群、血栓塞栓症などが死因となります。

標準的治療法が確立されていませんが、多発性骨髄腫の類縁疾患(形質細胞の異常増殖という点で共通)ということで、多発性骨髄腫に準じた治療が行われています。

2000年頃から行われ始めた自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法の中期(治療後数年)予後は良く長期寛解が期待されています。

しかし移植後5年以上経過すると一定の頻度で再発が見られ、長期予後については今後の検討が必要とされています。

POEMS症候群の診断

POEMS症候群の診断は、一連の血液検査、尿検査、画像検査(CT・MRI・PETなど)、神経機能テスト、骨髄生検などをもとに行われます。

しかし、他の多くの疾患と共通している症状も多いため、診断はしばしば難しいものとなります。

POEMS症候群は、日本血液学会から出されている造血器腫瘍診療ガイドラインによって診断基準が出されています。

POEMS症候群の診断基準

①必須大基準の両者を満たす
②他の大基準の1つ以上、かつ小基準1つ以上を満たす

必須大基準 1.多発性神経炎(脱髄性障害が典型的)
2.モノクローナル形質細胞増殖疾患(ほぼ常にλ型)
他の大基準 3.キャッスルマン病 a
4.硬化性骨病変
5.VEGF上昇
小基準 6.像機腫大(脾臓、肝臓、リンパ節腫脹)
7.血管外体液漏出(浮腫、胸水、腹水)
8.内分泌異常(副腎、甲状腺 b、下垂体、性腺、副甲状腺、膵臓 b)
9.皮膚異常(色素沈着、多毛、糸球体様血管腫、多汗症、先端チアノーゼ、紅潮、白状爪)
10.乳頭浮腫
11.血小板増加/多血症 c
他の症状と徴候 ばち指、体重減少、多汗、肺高血圧症/拘束性肺障害、血栓性素因、下痢、ビタミンB12低値

 a:モノクローナル形質細胞増殖が明らかでないキャッスルマン病バリアントが存在する
 b:糖尿病と甲状腺機能異常は頻度が極めて高いため、これら単独では小基準を満たさない
 c:キャッスルマン病の合併がなければ、貧血や血小板減少は極めて稀である

POEMS症候群は単独の疾患として発症しますが、一部ではキャッスルマン病の一つのサブタイプと重なる部分があります。

キャッスルマン病について詳しく知りたい方へ

POEMS症候群の分類

POEMS症候群は一般的にサブタイプの分類はありません。しかし、病態の進行度合いや症状の範囲、個々の患者の特性により症状や進行は異なることがあります。

一部の患者では、特定の臓器に関連する症状がより顕著になることがあり、特定の部位に異常な形質細胞が集中している場合を「局所性」または「孤立型」と表現することもあります。(反対に全身に広がっている場合を「多発性」または「播種型」と表現されます)

局所性のPOEMS症候群の診断には、画像診断(CT・MRI・PET)の情報と骨髄生検での結果などを組み合わせて判断されます。

POEMS症候群の治療法

POEMS症候群は複雑な病態で症例数も少ないため治療法は確立されていません

類縁疾患である多発性骨髄腫の治療に準じており、症状の管理、疾患の進行を遅らせ、できるだけ正常な生活を続けることを目標に治療が行われます。

POEMS症候群の治療法は大きく以下の3つに分けられます

  1. 「限局性」形質細胞腫が存在する場合は、外科的手術や局所的な放射線療法
  2. 形質細胞の増殖の制御・サイトカインの過剰産生の抑制
  3. 症状の管理・患者の生活の質と予後の改善を目的とした対症療法

外科的手術や局所的な放射線療法とは

画像診断や骨髄生検・血液検査などによって、形質細胞の異常増殖が特定の部位に限局的だと判断された場合は、外科的手術や、局所的な放射線療法によって腫瘍の切除や縮小を試みます。

しかし、そもそも免疫系の異常に起因するため、その後他の部位での新たな腫瘍が発生する可能性や、全身的な病態が完全に解消されるかどうかは確約されません

そのため、局所療法後には臨床症状や検査値を慎重に経過観察する必要があります。

形質細胞の増殖の制御・サイトカインの過剰産生の抑制とは

形質細胞の増殖の制御・サイトカインの過剰産生を抑制するために、以下の治療が行われます

  • 化学療法
  • ステロイド療法
  • 生物学的製剤(IL-6の阻害剤など)
  • 免疫抑制療法
  • 自己幹細胞移植
化学療法

体内の異常な形質細胞を減らすために、特定の化学療法薬が用いられます。これは全身に影響を及ぼすため、様々な副作用を引き起こす可能性があります。

    【主なものに】

  • メルファラン
  • シクロホスファミド
  • レナミドミド
  • ボルテゾミブ
ステロイド療法

免疫系を抑制し、異常な形質細胞の活動を減らすために、ステロイド薬が用いられることがあります。

    【主なものに】

  • プレドニゾロン
  • デキサメタゾン
  • メチルプレドニゾロン
生物学的製剤

生物学的製剤であるIL-6遮断薬は、免疫応答を制御することで、自己免疫疾患や一部の炎症性疾患の治療に用いられます。

POEMS症候群においては、IL-6がサイトカインとして過剰に産生されることが病態に関与していると考えられているので、IL-6遮断薬はPOEMS症候群の治療に効果を発揮することが期待されています。

    【主なものに】

  • トシリズマブ
  • サリツマブ
免疫抑制療法

免疫抑制療法は、免疫系が過敏に反応し体組織を攻撃するような状況(自己免疫疾患など)を抑えるための治療法です。

    【主なものに】

  • シクロスポリン
  • メトトレキサート
  • アザチオプリン
自己幹細胞移植

一部の患者では、自己の骨髄幹細胞を取り出し、高用量化学療法で骨髄を壊した後に、これらの幹細胞を体に戻す(移植する)治療が行われます。

これまで行われていた造血機能をリセットし、移植された新たな骨髄幹細胞による正常な造血機能に期待します。

症状の管理・患者の生活の質と予後の改善を目的とした対症療法

対症療法では、個々の症状に対する治療を意味します。

例えば、水腎症に対して利尿薬、内分泌障害に対してホルモン補充療法、末梢神経障害に対して神経痛を管理する薬などが使用されることがあります。

POEMS症候群は治療に応答することが多いと言われています。早期の診断と適切な治療により症状の進行を遅らせ、生活の質の改善や生存期間を延ばすことが可能になります。

しかし、各患者の症状の重度や病状、治療への反応性により、予後は異なります。

また、POEMS症候群は比較的稀な疾患であり、全ての患者が同じパターンに従うわけではないことを理解することが重要です。

したがって、POEMS症候群が疑われる場合や診断された場合は、適切な医療専門家による評価と治療が必要となります。

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カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年6月21日

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