再生不良性貧血(AA)の症状・診断・治療
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再生不良性貧血とは?
再生不良性貧血とは指定難病の一つで、汎血球減少を起こす血液の病気です。
汎血球減少とは、赤血球、白血球、血小板などの血球の2つ以上が減少する状態のことを言います。
骨髄の中で血液を作り出す細胞(造血幹細胞)の障害により、再生不良性貧血が引き起こされます。
ほとんどが原因不明の特発性AAで、造血幹細胞が障害を来すメカニズムには以下の2つの原因が考えられていますが、詳細は不明です。
- 造血幹細胞自体が異常を来すこと
- 自己免疫機序によって造血幹細胞が傷害されること
※自己免疫機序とは、異物から身体を守る役割の免疫細胞が自分自身の細胞や組織を敵とみなして攻撃すること
再生不良性貧血では、骨髄内の造血幹細胞が減少し脂肪組織に置き換わる骨髄低形成という特徴を持っています。
再生不良性貧血の罹患率の性比(女/男)は1.16で、男女とも10~20歳代と70~80歳代にピークがあります。
再生不良性貧血の症状と予後
どの血球がどれくらい減少するかによって症状は異なります。
- 赤血球減少:貧血、易疲労感、めまい、動悸、息切れなど
- 白血球減少:易感染状態、発熱など
- 血小板減少:出血傾向、皮膚の点状出血、鼻出血、歯肉出血など
再生不良性貧血ではそれぞれの血球が作られなくなってしまうため、血球が適切な働きができなくなることでの症状があらわれてきます。
再生不良性貧血の予後とは?
発症後早期に的確に治療された場合には、70%以上の症例で輸血不要になると言われています。
ただし発症後長期間経過した例や、一部の重症例、治療しても状態が改善されない劇症例では定期的な輸血を必要とし、早期に骨髄移植を行わなければ感染症のため死亡する確率が高いのが現状です。
また、治療によって改善した再生不良性貧血患者さんの約5%は、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などに移行するとされています。
再生不良性貧血の診断と分類
厚生労働省の「再生不良性貧血診療の参照ガイド」に基づいて、診断、重症度分類、治療方針などが決められます。
再生不良性貧血の診断
少なくとも2つ以上の血球減少が認めらるときで、それに基づいた症状が認められているときに、再生不良性貧血が疑われます。
再生不良性貧血以外にも複数の血球減少をきたす血液疾患はありますので、以下のような病気を除外する必要があります。
- 発作性夜間血色素尿症
- 急性白血病
- 骨髄異形成症候群
臨床上の特徴としては、溶血ではなく造血能力が低下していること(網赤血球↓・鉄の利用障害)があり、肝脾腫やリンパ節腫大が認められないことがあげられます。
骨髄検査をすると、有核細胞が減って造血されていない様子がわかり、残りの組織が線維ではなく脂肪(脂肪髄)に置き換わっていることで確定診断ができます。
再生不良性貧血の分類
以下のように血球の数によって、Stage1(軽症)~Stage5(最重症)の重症度分類されます。
再生不良性貧血の治療法
効果的な治療法は確立されておらず、重要度や年齢に応じて治療方針が決められます。
再生不良性貧血の治療は、
- 全症例が対象となる支持療法
- 造血回復を目指す治療
の大きく2つに分けられます。
支持療法
支持療法では輸血や薬剤を用いて、貧血や出血傾向の改善、感染症の予防や治療、輸血によって体内で増加した鉄の除去などが行われます。
造血回復を目指した治療法
造血回復を目指す治療法は3つあります。
- 免疫抑制療法
- 造血幹細胞移植
- 蛋白同化ステロイド療法
以下に簡単に内容とメリット・デメリットを説明します。
免疫抑制療法
再生不良性貧血の原因とされる自己免疫機序による造血幹細胞の傷害に対して、免疫反応において中心的な役割を担う細胞の働きやその細胞の増殖などを抑える治療法。
免疫抑制療法 | |
---|---|
メリット | デメリット |
効果が高く、重症例に対する奏効率は70% | 10%前後で骨髄異形成症候群や急性白血病へ移行する |
薬剤性や肝炎後の二次性AAにも効果がある | 疾患の根治は期待できない |
副作用がある |
造血幹細胞移植
自身の造血幹細胞とドナーの造血幹細胞を総入れ替えする治療法。新たな造血幹細胞によって造血機能の正常化を図る。
造血幹細胞移植 | |
---|---|
メリット | デメリット |
根治が期待できる | 体への負担が大きい |
GVHDなどの移植関連合併症や10%前後で移植関連死亡がある |
蛋白同化ステロイド療法
赤血球を増やすホルモンを出させるとともに、造血幹細胞に直接作用して増殖を促す治療法。
蛋白同化ステロイド療法 | |
---|---|
メリット | デメリット |
重篤な副作用がない | 上記2つの治療に比べると効果が劣る |
若年女性に対する不可逆的な男性化の副作用(多毛・色素沈着・嗄声・無月経など) |
再生不良性貧血の重症度別の治療方針
上述した重症度によって、治療方針が異なってきます。ここでは重症度別にご紹介していきます。
stage1~2の治療方針(軽症~中等症)
軽症の場合でも、血球減少期間が長期になると免疫抑制療法によって改善する可能性が非常に低いことから、積極的な治療が考慮されます。
そのため血球減少が進行している場合や、血小板が5万/μL以下の場合では、免疫抑制剤シクロスポリン(商品名:ネオラールなど)の内服を始めます。
シクロスポリンで効果が見られなかった場合には、蛋白同化ステロイド療法である酢酸メテノロン(商品名:プリモボラン)に切り替えられます。
若年女性の場合は不可逆的な男性化の副作用があるため、少量から開始し効果が乏しい場合は長期投与を避ける必要があります。
血球減少が進行して輸血が必要となった場合には入院して、ATG(商品名:サイモグロブリン)+シクロスポリンを合わせた免疫抑制療法と支持療法を併せて行います。
stage3以上の治療
40歳未満でHLA合致ドナーがいる場合には、造血幹細胞移植が第一選択の治療法となります。
40歳未満でもHLA合致ドナーがいない場合や、40歳以上の場合には、免疫抑制療法を行っていくことになります。
造血幹細胞移植の治療におけるメリットとリスクを勘案し、個々の患者の希望に合わせた治療を選択する必要があります。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2022年10月8日
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