好酸球増加症の症状・診断・治療

好酸球性増加症の症状診断治療について、血液専門医が解説していきます。

好酸球増加症とは、白血球の一種である好酸球が増加している状態のことをいいます。

好酸球増加症は現れる症状が多岐にわたるという特徴がありますが、好酸球の増加そのものが直接命に関わるような症状を引き起こすわけではありません。

しかし、好酸球が大量になる、またはその状態が長く続くと、肺や心臓などの重要組織に影響を及ぼします。

これらの臓器障害によって致命的な状態になると、緊急の治療が必要となることもあります。

疾患の解説に入る前に、そもそも好酸球とはどのような役割をもつ細胞かを簡単に説明しますね。

好酸球とは

白血球の一つで、侵入してきた異物から身体を守る免疫系の細胞になります。

主に体内に入ってきた寄生虫を攻撃する役割と、アレルギー反応にも関与しています。アレルギー反応が生じると好酸球の数が増えます。

また、好酸球は炎症の制御にも関与しており、慢性炎症の場合にも数が増えることがあります。好酸球はMBPやECPと呼ばれる特別な物質を持っています。

本来なら寄生虫感染した時などにこれらのMBPやECPを放出することで、寄生虫を攻撃します。しかし、好酸球が過剰に活動すると、これらの物質が健康な組織を攻撃し、炎症や組織の損傷を引き起こすことになります。

好酸球増加症は
  1. 増加した好酸球そのものが組織内に浸潤することで起こる、組織や臓器の機能障害
  2. 好酸球内にあるMBPやECPが組織中に放出されることで起きる、直接的な組織障害
  3. 好酸球によって放出される様々な物質で引き起こされる、高炎症状態

を主な病態として、様々な症状を引き起こします。

好酸球増加症はまれな疾患で、20~50歳代の男性に多いことは分かっていますが、有病率など詳細なことは明らかにされていません。

全身性に症状や障害は現れますが、致命的な臓器機能障害に至るケースは一部とされています。

好酸球増加症の症状と予後

好酸球増加症の症状を説明する前に、知っておいてもらいたい前提をまずお話させてください。

好酸球増加症は血液検査データー上で、好酸球の値が高値にある状態のことを言います。

好酸球がわずかに上昇しただけ、またはその期間が短期間である場合は、症状が現れることはあまりないでしょう

(※好酸球値の上昇が続いていて何かしらの症状・臓器障害が現れれば好酸球増加症候群と呼び方を変えて表現される場合もあります)

好酸球の数値が高いほど、また、その状態が長期にわたって続くほど、一般的には臓器に対する影響や症状が現れる可能性は高まると考えられます。

しかしながら、症状の発現は、好酸球の増加度や期間だけでなく、増加した好酸球がどの組織や臓器に影響を与えているか、またその程度によって異なります。

症状が特定の臓器に限局されるのか、全身性に症状が現れるのかどうかは、個々の患者の健康状態や既往歴などによると考えられています。

前提をお話させて頂いたところで、これから症状についてお話させてもらおうと思います。

好酸球増加症の症状

好酸球が増える原因は様々ありますが、原因が何であれ好酸球の増加が体内の組織に与えるダメージは同様であると考えられています。

具体的な症状は以下のようなものがあります

  • 全 身 :食欲不振、疲労、発熱、筋肉痛、筋力低下など
  • 消化器系:胃炎、腹痛、下痢、吸収不良、体重減少など
  • 皮 膚 :皮膚の炎症、赤み、かゆみ、発疹、血管性浮腫
  • 呼吸器系:胸膜炎や胸水貯留に伴う呼吸困難、喘息、咳嗽、慢性副鼻腔炎など
  • 心 臓 :心筋炎や心膜炎などによる心不全、心拍数の増加、息切れ、胸痛など

好酸球増加症の予後

好酸球増加症自体は直ちに生命を脅かすことはありません。原因疾患が治療可能であれば予後は良いですが、原因が治療困難な場合や、特に好酸球性白血病などの重篤な疾患の場合予後は悪くなります。

好酸球が異常に増えることで引き起こされる臓器障害や合併症が心臓に起きた場合は、致死的になる場合もあります。

好酸球増加症の診断と分類

好酸球増加症の診断

末梢血中の好酸球増加は以下のように分類できます。

末梢血中の好酸球増加(成人の場合)
基準値 約100~300/μL(0.1~0.3 × 109/L)
軽度 500~1500/μL(0.5~1.5 × 109/L)
中等度 1500~5000/μL(1.5~5 × 109/L)
重度 > 5000/μL(5 × 109/L)

定義としては、好酸球の絶対数が500/μL以上で、好酸球増加状態となります。

しかし、好酸球増加症は単に好酸球数が増加しているだけでは診断に至りません。そこで以下の診断プロセスが必要となります。

eosinophilia01

これらの評価に基づいて、好酸球増加症の原因を探ります。ただし、原因が明らかでない場合もあり、そのような場合は好酸球増加の進行と症状の管理が重要となります。

好酸球増加症の分類

好酸球増加症は、原因によって以下の様に分類できます。

  • 反応性(二次性)好酸球増加症
  • 特発性(一次性)好酸球増加症
     骨髄増殖型
     リンパ増殖型

eosinophilia02

反応性(二次性)好酸球増加症とは

好酸球の主な役割には、①寄生虫感染に対する防御、②アレルギー反応の調節があります。

したがって、以下の様な原因がある場合には反応性(二次性)好酸球増加症となり、好酸球が増加します。

反応性(二次性)好酸球増加症の原因
寄生虫感染 特に腸内の寄生虫に対する反応
アレルギー疾患 特に慢性的な喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎など
皮膚疾患 アトピー性皮膚炎や天疱瘡など
自己免疫疾患 全身性エリテマトーデスや血管炎など
薬物反応 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗生物質、抗てんかん薬、抗精神病薬(※これらはいずれも例外的な状況であり、大多数の人々ではこれらの薬物を服用しても好酸球増多症は発症しません)
腫瘍 一部の腫瘍、特に血液の腫瘍(好酸球性白血病、ホジキンリンパ腫、白血病、特定の骨髄増殖性腫瘍など)

反応性(二次性)好酸球増加症の場合は、明らかな原因があるので特発性(一次性)好酸球増加症と比べると比較的容易に診断を付けることができます。

特発性(一次性)好酸球増加症とは

特発性(一次性)好酸球増加症では、反応性(二次性)好酸球増加症で挙げたような明らかな原因が無いにもかかわらず、好酸球が増加する状態を言います。

特発性(一次性)好酸球増加症の診断は以下の項目を満たすことで診断されます。

  • 好酸球の増加 :末梢血の好酸球数≧ 1.5 × 109/L
  • 増加の持続期間:好酸球増加が最低4週間の間隔で少なくとも2回記録されている
  • 組織中の好酸球の増加:骨髄での好酸球増加
     末梢血及び骨髄中の骨芽球< 20%
     (組織中の好酸球の数が増えることも含まれる)
  • 原 因:反応性(二次性)好酸球増加症が除外される

しかしながら、症状が多岐にわたり、反応性(二次性)好酸球増加症に関連する疾患も多いことから、特発性(一次性)好酸球増加症と特定することが困難な場合も多くあります。

そのため、病歴聴取や身体診察が非常に重要となります。

特発性(一次性)好酸球増加症には2つのサブタイプがあります。

2つのサブタイプは、好酸球増加症の原因となる異常が、骨髄細胞由来かリンパ系細胞由来かによって分けられます。

  • 骨髄増殖型 =遺伝子変異(FIP1L1-PDGFRA 融合遺伝子など)が原因
  • リンパ増殖型=Tリンパ球(特にCD3-CD4+T細胞)の異常な活性が原因
骨髄増殖型

骨髄内の好酸球の産生が異常に増大することにより発症します。これは特定の遺伝子変異(例えば、FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子)などによって引き起こされることがあります。

FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子とは、二つの異なる遺伝子が結合し新たな遺伝子を形成する現象(融合遺伝子)によって生じます。

この融合遺伝子は細胞の成長と分裂を制御せず、結果として好酸球の増加を引き起こします。

リンパ増殖型

リンパ増殖型は特定のリンパ球(T細胞)が異常に活性化し、好酸球増加を引き起こす物質(好酸球増殖因子)を過剰に分泌することにより発症します。

好酸球増加症の治療法

好酸球増加症には確立された治療のアルゴリズムなどはありません。患者の状態によって、根治療法・緊急療法・支持療法などの治療が組み合わされて行われます。

根治療法

根治療法は、好酸球を増加させている原因に合わせて治療を選択していくことになります。

具体的には以下のような治療法があります。

  • 反応性(二次性)好酸球増加症:原因疾患の治療
  • 特発性(一次性)好酸球増加症
     骨髄増殖型 :分子標的薬(イマニチブなど)
     リンパ増殖型:ステロイドやインターフェロンαなど
反応性(二次性)好酸球増加症:原因疾患の治療

反応性(二次性)好酸球増加症の場合は、原疾患を治療することで好酸球の数が正常に戻り、好酸球による臓器障害や症状は通常であれば軽快します。

しかし、長期間にわたって臓器が損傷していた場合、その損傷が完全に治るとは限らず、一部の症状が持続する可能性もあります。

骨髄増殖型好酸球増加症:イマニチブ(商品名:グリベック)

骨髄増殖型の場合、遺伝子異常が関与していることが多く、この遺伝子異常によって骨髄細胞の異常な増殖が引き起こされます。

イマニチブは抗がん剤の一種である分子標的薬ですが、この薬は特定のタンパク質を阻害し、それにより異常な細胞の増殖を抑えます。

イマニチブは遺伝子異常が原因の骨髄増殖型には非常に効果的であり、一部の患者では完全寛解を達成することが可能と言われています。

骨髄増殖型ではあるが、FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子を持たない患者では、ステロイド治療が第一選択となります。

リンパ増殖型好酸球増加症:ステロイドやインターフェロンαなど

リンパ増殖型では、一部の患者では完全寛解を達成することが可能と言われています。

体内の特定のリンパ球(T細胞)が異常に活動し、好酸球の増加を引き起こす物質を過剰に産生します。

リンパ増殖型の治療では、ステロイドが初期の選択肢として使用されます。

しかし、ステロイドの効果が不十分な場合、または長期間ステロイドを使用することが望ましくない場合には、インターフェロンα、または抗体治療(抗IL-5抗体)などが用いられます。

緊急療法

緊急療法は、好酸球増加症によって引き起こされる臓器機能の急速な損失に対応するための治療で、症状を即座に抑制することを目的とします。

好酸球増加症自体によって致命的になることはありませんが、好酸球が異常に増えることで引き起こされる臓器障害や合併症は重篤な状態を引き起こすことがあります。

例えば、好酸球性心筋症による心不全や、好酸球性肺炎による呼吸困難などです。治療にはステロイドのような強力な抗炎症薬が一般的に用いられます。

支持療法

支持療法は、症状を緩和し、患者の生活の質を改善することを目的としています。これは、疼痛の管理、疲労感の軽減、皮膚のかゆみの管理など、患者が体験する症状や副作用に対する治療となります。

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カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年7月17日

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