モノヴァー(一般名:デルイソマルトース第二鉄)の効果と副作用

【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。

診察をご希望の方は、内科外来の特徴と流れ をお読みください。

モノヴァーは、2023年3月に承認された鉄欠乏性貧血に対する注射薬です。

2019年に承認されたフェインジェクトに続き、週1回の投与でも作用が持続する鉄の注射剤として登場しました。

今回は、モノヴァーの効果や副作用について解説していきます。

モノヴァーとは?

モノヴァーの効果と副作用を、医師が詳しく解説したイラストです。

モノヴァーは、鉄とデルイソマルトースが複合体となっている鉄欠乏性貧血の治療薬です。

日本では2023年3月に承認されましたが、欧州では2010年に発売されており、現在では40ヵ国以上で使用されています。

モノヴァーは、鉄がデルイソマルトースとマトリックス構造を形成している薬で、血液内の遊離鉄(単独でいる鉄)を少なくできる薬剤です。

そのため、鉄による毒性が低く、一度に高用量の鉄を投与できる特徴があります。

モノヴァーの適応

モノヴァー(一般名:デルイソマルトース第二鉄)の適応として、以下が認められています。

  • 鉄欠乏性貧血

モノヴァーの使用は、鉄欠乏性貧血の中でも「経口鉄剤の内服が難しい場合」に限られます。

口から薬を飲める場合は、経口鉄剤の「フェロミア」などが処方されるのが一般的です。

モノヴァーの効果

血液内にモノヴァーが投与されると、肝臓や脾臓などの細網内皮系細胞に取り込まれます。

その後、デルイソマルトースと複合体を形成していた鉄が離れて、体内の鉄の運び屋であるトランスフェリンと結合します。

トランスフェリンに結合した鉄は、そのまま骨髄へと運ばれ、ヘモグロビン合成に利用されることにより鉄欠乏性貧血を改善します。

モノヴァーの用法

モノヴァー(一般名:デルイソマルトース第二鉄)の用法は、以下の通りです。

◎体重50kg以上の場合
 以下のいずれかの方法で投与
  • 鉄として1回あたり1000mgを上限として週1回点滴静注
  • 鉄として1回あたり500mgを上限として最大週2回緩徐に静注
◎体重50kg未満の場合
 以下のいずれかの方法で投与
  • 鉄として1回あたり20mg/kgを上限として週1回点滴静注
  • 鉄として1回あたり500mgを上限として最大週2回緩徐に静注

治療終了時までの総投与鉄量は、患者のヘモグロビン濃度及び体重に応じるが、鉄として2000mg(体重50kg未満の成人は1000mg)を上限とする。

モノヴァーによる治療は鉄の最大量が2000mgと決まっているため、2週間の投与(週1回投与の場合は計2回・週2回投与の場合は計4回)で終了します。

再度モノヴァーの投与を検討する場合は、前回の投与から8週間以上空けたタイミングで血液検査を実施し、投与の可否を決定します。

モノヴァーの副作用

モノヴァー投与による副作用として、特に注意すべきものが「過敏症」です。

蕁麻疹・発疹などの皮膚症状や、顔面浮腫、呼吸困難などが報告されています。モノヴァー投与直後など、変わった様子がないか特に注意しましょう。

主な副作用と頻度

モノヴァーの副作用頻度は、以下の通りです。

  • 発 熱:7.4%(22/298例)
  • 倦怠感:2.3%(7/298例)
  • 肝機能異常:1.7%(5/298例)
  • 低リン血症:6.0%(18/298例)
  • 頭 痛:3.7%(11/298例)
  • 蕁麻疹:7.4%(22/298例)
  • 発 疹:2.3%(7/298例)

参考:国内臨床試験(NS32-P3-01試験237例、NS32-P3-02試験40例及びNS32-P3-03試験21例)

妊娠

妊娠中・妊娠している可能性がある女性は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」とされています。

日本国内での臨床試験の実施はありませんが、海外の試験において胎児の徐脈が報告されているためです。

また、非臨床試験(ラット・ウサギ)においては、母動物の鉄過剰が原因と考えられる胎児の奇形が認められています。

授乳

モノヴァーによる治療中の授乳は「治療上の有益性・母乳栄養の有益性を考慮し、継続もしくは中止の検討をすること」とされています。

これは、モノヴァーの母乳中への移行が認められたためです。

ただし、日本国内での臨床試験において母乳中の鉄濃度を確認したところ、問題となる濃度の上昇は認められなかったとの結果も出ています。

モノヴァーの薬価

モノヴァーの薬価は以下の通りです。※2023年6月現在

  • 先発品(モノヴァー静注):500㎎・6,189円、1000㎎・12,377円
  • 後発品:未発売

まとめ

  • モノヴァーは鉄とデルイソマルトースが複合体となりマトリックス構造を成している注射薬です。
  • モノヴァーの投与量は、体重から決定されます。
  • モノヴァーで注意すべき副作用が「過敏症」です。
  • モノヴァー静注の薬価は、500㎎が6,189円、1000㎎が12,377円です。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
上野御徒町こころみクリニックでは、血液患者さんの治療と社会生活の両立を目指し、大学病院と夜間連携診療を行っています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

(医)こころみ採用HP (株)こころみらいHP

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年7月14日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

【販売中止】フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の効果と副作用

フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)は、鉄欠乏性貧血に処方されるカプセル剤です。 徐放性の薬剤であり、1日の内服回数を少なくすることで服用の負担を軽減できます。 今回は、フェルムカプセルの効果や副作用につい… 続きを読む 【販売中止】フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の効果と副作用

投稿日:

腎性貧血の症状・診断・治療

腎性貧血とは 腎性貧血は腎臓が原因で起こる貧血で、主に腎機能低下に伴って生じる貧血と言えます。 腎臓と言えば、「体内の老廃物を濾過して、おしっこをつくるところ」というイメージがあるかもしれませんが、腎臓にはホルモンを分泌… 続きを読む 腎性貧血の症状・診断・治療

投稿日:

タバリス(一般名:ホスタマチニブナトリウム水和物)の効果と副作用

タバリス(一般名:ホスタマチニブナトリウム水和物)は、特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)の治療に使われる経口血小板破壊抑制薬です。 2023年4月に… 続きを読む タバリス(一般名:ホスタマチニブナトリウム水和物)の効果と副作用

投稿日:

人気記事

紫斑病の症状・診断・治療

紫斑病とは? 紫斑病とは、止血に重要な働きをしている血小板が減少してしまうことなどで、血が止まりにくくなっているときに起こります。 その原因は様々で、血小板の機能に異常がある場合、凝固因子といわれる止血に必要なタンパクが… 続きを読む 紫斑病の症状・診断・治療

投稿日:

アレルギー性紫斑病の症状・診断・治療

アレルギー性紫斑病とは? 原因不明のアレルギー反応によって全身の毛細血管で炎症が起こり、血管が弱くなってしまうことで紫斑が生じる病気です。 アナフィラクトイド紫斑病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、血管性紫斑病、IgA血… 続きを読む アレルギー性紫斑病の症状・診断・治療

投稿日:

貧血の症状・診断・治療

貧血とは? 貧血は、血液中で酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビン濃度が減り、全身で酸素が不足してしまう状態です。 人間の活動のためには十分な酸素が不可欠ですので、貧血が進行すると体が疲れやすくなり、不足した酸素を取り込もうと心… 続きを読む 貧血の症状・診断・治療

投稿日: