原発性マクログロブリン血症の症状・診断・治療
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原発性マクログロブリン血症とは?
原発性マクログロブリン血症とは血液がんの1つで、リンパ球が骨髄外のリンパ組織で異常増殖する悪性リンパ腫という種類の血液がんに含まれます。
免疫をつかさどっている白血球の細胞のうち、リンパ球の一つにB細胞(Bリンパ球)があります。
このB細胞が形質細胞に分化し、免疫グロブリンとよばれる抗体の機能をもつタンパク質を作っていきます。
原発性マクログロブリン血症は、このB細胞から形質細胞へ分化する中間段階にあるリンパ形質細胞が異常増殖(=がん化)する病気です。
この段階での悪性リンパ腫をリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)と呼びますが、そのうち異物を攻撃する能力のないIgM型Mタンパクが増加している場合を、原発性マクログロブリン血症と呼びます。
(原発性マクログロブリン血症は、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症とも呼ばれ、WMと略されます)
このため原発性マクログロブリン血症は、悪性リンパ腫の中の低悪性度B細胞リンパ腫に分類されます。
IgM型Mタンパクとは?
原発性マクログロブリン血症の特徴であるIgM型Mタンパクについて、もう少し解りやすく説明します。
形質細胞の本来の役割には、異物を攻撃する抗体を造る役割があります。
しかしがん化することでその役割が果たせなくなり、Mタンパクと呼ばれる攻撃能力のない抗体を産生することになります。
抗体とは免疫グロブリンのことを指していて、免疫グロブリンにはIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類がありますが、原発性マクログロブリン血症ではIgM型のMタンパクの増加が特徴と言えます。
Mタンパクを産生する疾患は多発性骨髄腫など他にもありますが、Mタンパクの種類がIgMの1種のみかということは、原発性マクログロブリン血症かどうかを識別するために重要な要素になります。
原発性マクログロブリン血症にはMYD88遺伝子L2265P変異が陽性であることが多いことから、これらの遺伝子変異が原因であると考えられています。
原発性マクログロブリン血症の発症頻度は非常に低く、年間で人口100万人あたり2~3人ほどの罹患率で、非常にまれな血液のがんと言えます。
女性よりも男性で多く、高齢者に多い疾患です。
原発性マクログロブリン血症の症状と予後
原発性マクログロブリン血症の症状は多くありますが、大きくまとめると以下の2つに分けられます。
- IgM型Mタンパクの増加によって引き起こされる症状
- 悪性リンパ腫様の症状
IgM型Mタンパクの増加によって引き起こされる3症状
- 過粘稠度症候群の症状:頭痛、めまい、意識障害、視力障害、心不全など
- レイノー現象の症状:寒冷時の手足のしびれ
- アミロイドーシス:様々な臓器の機能障害
過粘稠度症候群とは
過粘稠度症候群とは、Mタンパクの増加によって血液の粘度が増し、血流が悪くなります。
様々な臓器に血流障害が生じることで引き起こされる症状のことを言います。
具体的には、出血傾向や凝固異常(Mタンパクが凝固因子と結合)、頭痛やめまいといった精神神経症状、眼圧変化や視力障害などがあげられます。
原発性マクログロブリン血症のMタンパクであるIgMは5量体の巨大分子を形成するので、マクログロブリンと呼ばれています。
多発性骨髄腫という疾患でもMタンパクを形成し過粘稠度症候群を引き起こしますが、原発性マクログロブリン血症で形成されるIgM型Mタンパクの方が分子量が大きいため、より過粘稠度症候群を引き起こしやすくなります。
レイノー現象とは
原発性マクログロブリン血症で産生されるMタンパクは、クリオグロブリンの性質を持っていることがあります。
クリオグロブリンは平常体温時には血中に溶け、低温になるとゲル状に凝集する性質を持っています。
そのため寒冷時には手足の血流障害が生じ、手足のしびれという症状が出現します。
アミロイドーシスとは
アミロイドーシスとは、Mタンパクが心臓や腎臓、胃腸、神経など様々な臓器に付着し、それらの臓器の機能障害を引き起こすことです。
悪性リンパ腫様の3症状
- 全身のリンパ節腫脹:全身のリンパ節の腫れ、肝脾腫
- 造血機能の低下:赤血球・白血球・血小板の減少に伴う、貧血、易感染状態、出血傾向
- がん細胞から産生される物質(サイトカイン)による全身症状:発熱、体重減少、盗汗
全身のリンパ節腫脹とは
原発性マクログロブリン血症は、B細胞由来のがん細胞がリンパ節で異常増殖する病態となるので、全身のリンパ節や脾臓、浸潤された骨髄などが腫れてきます。
肝脾腫やリンパ節腫大が原発性マクログロブリン血症の初発症状として気づかれることが多いです。
造血機能の低下とは
原発性マクログロブリン血症では、がん細胞がリンパ節内だけでなく骨髄にも浸潤し異常増殖します。
そのため、骨髄内で赤血球や血小板などの他の血球を正常に造血することができなくなります。
がん細胞から産生される物質(サイトカイン)による全身症状とは
がん細胞となったB細胞由来の細胞は、そもそも免疫細胞です。
そのためがん細胞が異常増殖することで病原体と戦う際に分泌されるサイトカインという物質が増加し、全身が炎症状態に陥ります。
このようなメカニズムから、発熱、体重減少、盗汗などの症状が現れます。
ちなみに以下3つの症状は、B症状と呼ばれています。
- 38.0℃以上の原因不明の発熱
- 6ヶ月で10%以上の原因不明の体重減少
- 盗汗(寝具を変える必要がある程の激しい寝汗)
原発性マクログロブリン血症の予後
原発性マクログロブリン血症の進行は一般にゆっくりで、50%生存期間は5年以上とされています。
予後が悪くなる指標として以下が挙げられており、該当数が多い程予後が悪くなると言われています。
- 65歳以上
- ヘモグロビン値11.5g/dL以下
- 血小板数10万/μL以下)
- β2マイクログロブリン3μg/mL以上
- 血清IgM7,000mg/dL以上
原発性マクログロブリン血症の診断
原発性マクログロブリン血症の診断は、悪性リンパ腫で行う検査を基に行います。
しかし病気の進行がゆっくりで、特有の症状がないので診断に時間を要する場合もあります。
検査を経て、下記を満たすことで確定診断されます。
- リンパ節・骨髄にB細胞性のがん細胞の増殖・浸潤を認める
- IgM型Mタンパク血症
原発性マクログロブリン血症の治療法
原発性マクログロブリン血症の治療は造血器腫瘍診療ガイドラインの治療アルゴリズムに沿って行われます。
原発性マクログロブリン血症と診断されても、症状が無ければ基本的に経過観察となります。
しかし下記の症状や合併症の出現、血液データの変化があった場合には治療が検討されます。
- B症状
- リンパ節腫大、肝脾腫
- 過粘稠度症候群、末梢神経障害、腎障害など
- ヘモグロビン値<10g/dLや血小板<10万/μL
原発性マクログロブリン血症の治療法は大きく3つあります。
- 血漿交換療法
- 化学療法
- 造血幹細胞移植
血漿交換療法とは
粘度の高くなった血液を正常に戻すための、過粘稠度症候群に対する治療です。
血液透析の要領で、身体から血液を取り出しながら機械の中に通して行われます。
機械の中では血漿(血液内の液体成分)と血球(血液内の血球成分)に分けられ、Mタンパクが含まれていた血漿が新しい血漿と交換されます。
Mタンパクが除去され正常な粘度になった血液が再び身体に戻されます。
化学療法とは
抗がん剤や分子標的薬を用いてがん細胞の増殖を抑制、または死滅させる治療法のことです。
抗がん剤はがん細胞と同時に正常な細胞も攻撃するので、副作用を伴います。
分子標的薬はがん細胞を標的として作用する薬剤となるので、抗がん剤と比較して副作用は少ないと言われています。
しかし分子標的薬特有の副作用が出現することがわかってきました。
治療で使われる薬剤の種類は、アルキル化薬、プリン拮抗薬、分子標的薬で、悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の治療法などを用いることもあります。
初回治療時に推奨されている治療薬には以下のものがあります。
- 単剤療法:分子標的薬リツキシマブ(R)
- 併用療法:DRC療法・BR療法
- DRC療法:デキサメタゾン(DEX)+リツキシマブ(R)+シクロホスファミド(CPA)
- BR療法:
リツキシマブ(R)+ベンダムスチン
リツキシマブ(R)+ボルテゾミブ(BOR)
リツキシマブ(R)+フルダラビン(FLU)
造血幹細胞移植とは
がん細胞の根絶を目的とした治療で、ドナーから提供された造血幹細胞を自身の造血幹細胞と総入れ替えする治療です。
移植の前処置として大量の化学療法や放射線療法を行うため、体にかなり大きな負担がかかります。
また移植後にも拒絶反応や合併症のリスクなどもあることから、年齢や全身状態を十分に考慮し検討する必要があります。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年1月26日
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