成人T細胞白血病の症状・診断・治療

成人T細胞白血病とは?

成人T細胞白血病について、症状、診断、治療について、血液専門医が詳しく解説します。

成人T細胞白血病(Adult-Tcell Leukemia=ATL)とは、HTLV-1というウイルスが原因で発症する血液の病気です。

血液は赤血球・白血球・血小板という細胞成分でできていて、白血球はさらに様々な役割をもった細胞に分けられます。

成人T細胞白血病では、白血球の内の1つのT細胞という免疫を司るT細胞にHTLV-1ウイルスが感染し、T細胞が異常に増殖する病気です。

発症すると、

  • リンパ節の腫れ
  • 肝臓や脾臓の腫大
  • 皮膚に様々な症状が現れる皮膚病変
  • 高カルシウム血症

といった症状が現れます(詳細は後述)

成人T細胞白血病(ATL)では、HTLV‐1ウイルスに感染していても症状が発症せず健康にすごせる状態(HTLV-1キャリア)であることがほとんどです。

そのうち数%程度が、30~50年との経過の中で成人T細胞白血病を発症します。

そのためATLは、中年以降(発症年齢の中央値は70歳前後)に好発することが多いとされています。

また、日本では九州・沖縄地域にHTLV-1キャリアが多いという特徴もあります。

HTLV‐1ウイルスの感染経路には母乳・性交渉・輸血があります。

母乳による母子感染が最も多く、現在では妊婦健診でHTLV-1抗体検査が導入され、感染を未然に防ぐように取り組まれています。

ウイルスに感染した全ての人が発症するわけではなく、HTLV-1キャリアであっても生涯でATLを発症するのは感染者の5%程度と言われています。

成人T細胞白血病の症状と予後

成人T細胞白血病の症状

成人T細胞白血病では、HTLV-1ウイルスがT細胞に感染すると無秩序にT細胞が異常増殖(=腫瘍化)します。

この異常増殖した細胞をATL細胞と呼ぶのですが、成人T細胞白血病の症状は、このATL細胞の増殖によって引き起こされます。

主な症状は
  1. ATL細胞がリンパ節・肝臓・脾臓に浸潤することによる、全身のリンパ節が腫れるリンパ腫・肝脾腫
  2. ATL細胞が皮膚に浸潤することによる、皮膚病変
  3. 正常なT細胞の減少による、細胞性免疫の低下(易感染性)
  4. ATL細胞が産生するPTHrPによる、高カルシウム血症

があります。

①リンパ腫・肝脾腫とは

リンパ腫では、頸部、わきの下、足の付け根、腹部、骨盤部分などリンパ節の多い部分が腫れます。

肝脾腫では、異常増殖したATL細胞が肝臓や脾臓に浸潤し留まることで腫大します。

リンパ腫や肝脾腫では基本的に痛みは伴いませんが、腫瘤のできた部位によっては腫瘤が大きくなることで周辺の臓器を圧迫し痛みが出現することや、痛み以外にも様々な症状を起こします。

②皮膚病変とは

ATL細胞が皮膚に浸潤し、丘疹・結節・腫瘤・紅斑などの症状が見られます。

③細胞性免疫の低下(易感染性)

成人T細胞白血病では異常なT細胞ばかりが増殖し正常なT細胞が相対的に減少します。

T細胞には免疫機構の司令塔的な役割があります。そのため正常なT細胞が減少することで、健康な人ではかからないような感染症にかかりやすくなります(日和見感染症)。

④高カルシウム血症とは

ATL細胞は、PTHrPという副甲状腺ホルモンと似たようなタンパク質を産生することが知られています。

このPTHrPによって血中カルシウム値が上昇すると、それに伴い口喝・悪心嘔吐・多尿・意識障害といった症状が見られるようになります。

他にも、ATL細胞が消化管に浸潤した場合には下痢・便秘・腹痛などの症状が、中枢神経に浸潤した場合には頭痛や顔面神経麻痺などの神経症状を呈することもあります。

成人T細胞白血病の予後

成人T細胞白血病の予後は、分類された型によって予後不良と経過観察でも良いものとに分けられますが、予後不良の急性型とリンパ腫型では平均生存期間は約1年とされています。

一方で、くすぶり型と呼ばれる腫瘍病変がないタイプは5年以上、末梢血に異常リンパ球はあるがゆっくり経過する慢性型は2~3年の予後とまっています。

成人T細胞白血病の診断と分類

成人T細胞白血病の診断

成人T細胞白血病には、

  • 血清抗HTLV-1抗体の陽性
  • 核が花弁状・脳回状を示すT細胞(flower cell)

という所見の特徴があります。

まずはこれらの所見の有無を確認し確定診断した後に病型分類をする流れになります。

ATL01

また、

  • 血清LDH値の増加
  • 尿素窒素(BUN)値の増加
  • 血清アルブミン値の低下

3因子は1つでも該当すれば予後不良因子とされており、成人T細胞白血病の病型の分類で非常に重要となります。

成人T細胞白血病の分類

成人T細胞白血病は

  • くすぶり型
  • 慢性型
  • リンパ型
  • 急性型

4つに分類できます。

ATL02

4つの病型は予後不良の「アグレッシブATL」と、予後が比較的緩徐な経過の「インドレントATL」に分けられます。

慢性型においては、予後不良因子(血清LDH値、尿素窒素(BUN)値、血清アルブミン値のいずれか1つ以上の異常値)を有している場合は急速な経過を減ることが多く、アグレッシブATLに分類されます。

ATL03

成人T細胞白血病の治療法

成人T細胞白血病の治療は日本血液学会の示している治療アルゴリズムに沿って行われ、急性型・リンパ腫型、予後不良慢性型のアクティブATLか、くすぶり型・予後良好慢性型のインドレントATLかによって治療方針が異なります。

ATL04

インドレントATLの場合

皮膚症状があればステロイド軟膏の塗布、紫外線照射、切除などの皮膚科領域の治療は行いますが、それ以外の積極的な治療は基本的に行いません。

しかし、急速型へと転化する可能性も高いため、経過観察となります。

アグレッシブATLでの主な治療法は
  • 化学療法(多剤併用化学療法、分子標的薬)
  • 造血幹細胞移植

となります。

大きな流れとしては、最初にmodified LSG15療法(mLSG15療法)という化学療法を行います。

mLSG15療法にて一定の効果を得ることができれば(完全寛解・部分寛解・不変)、造血幹細胞移植をします。

一定の効果を得ることができなければ(増悪・再発)、救援療法としてmLSG15療法とは別の抗がん剤を用いた化学療法を行ったり、造血幹細胞移植や症状に応じた支持療法などを行ったりします。

mLSG15療法後の増悪・再発した場合の治療に関して勧められている標準治療などはなく、患者さんの状態やそれまでの治療の効果などを基に治療が行われます。

化学療法(多剤併用化学療法、分子標的薬)とは

日本血液学会の成人T細胞白血病の治療における化学療法とは、複数の抗がん剤を組み合わせて行う多剤併用化学療法のことを言います。

約8種類の抗がん剤を28日1サイクルとして4サイクル繰り返すmodified LSG15療法(mLSG15療法)や、分子標的薬であるモガムリズマブ(商品名:ポテリジオ)をmLSG15療法に組み入れる方法などがあります。

分子標的薬とは抗がん剤の一種。一般的な抗がん剤はがん細胞も正常な細胞も両方を攻撃してしまうのに対して、分子標的薬ではがん細胞のみを標的として攻撃するように設計されている。

造血幹細胞移植とは

血液を造り出す最初の細胞を造血幹細胞と言います。

造血幹細胞移植とは、患者の中にドナーの造血幹細胞を取り入れ(輸注)る治療法です。

新しく取り入れた正常な造血幹細胞に、その後の造血機能を担ってもらうという方法です。

骨髄移植には、自家移植、同種移植、同系移植と移植される造血幹細胞の由来によって3つに分けられます

  • 自家移植→患者自身の造血幹細胞
  • 同種移植→HLA型の一致したドナーからの造血幹細胞
  • 同系移植→一卵性双生児からの造血幹細胞

同種移植も同種造血幹細胞移植も、ドナーの造血幹細胞を患者に移植するという意味では同じ治療法になります。

両者の違いは、移植するものが造血幹細胞のみ(=同種造血幹細胞移植)か、免疫細胞や造血に関係する細胞など様々な細胞が含まれている(=同種移植)かになります。

造血幹細胞移植は体への負担がとても大きいので、患者さんの年齢や身体の状態によって

  • 骨髄破壊的同種移植
  • 骨髄非破壊的同種移植

を選ぶことになります。

骨髄破壊的/非破壊的の違いは、骨髄移植前の前処置の程度の違いを意味しています。

骨髄移植は①前処置、②移植、③移植後の管理という流れで行われます。

骨髄移植を必要としている患者さんは、血液を造り出す場である骨髄ががん細胞に浸潤され正常に機能していません。

そのため前処置として大量の抗がん剤や放射線の全身照射を行い、骨髄内を空っぽ(がん細胞も正常な細胞も破壊してしまう)にします。

その後空になった骨髄にドナーから提供された造血幹細胞を移植し、新たな造血機能を担ってもらうということになります。

しかしATLの患者さんの場合、平均好発年齢が高齢でこの前処置に耐えることができないことや、移植後に体力を回復することが難しいなどがあり、年齢や健康状態によって前処置の程度を選択するという方法がとられています。

比較的年齢が若い、もしくは身体の状態が良い場合には、骨髄破壊的に前処置を行い、積極的にがん細胞や患者が本来もっていた免疫担当細胞を根絶できるようにします。

患者が高齢、もしくは身体の状態的に強力な前処置に耐えることが難しいと考えられる場合は、骨髄非破壊的に前処置を行います。

非破壊的の場合、破壊的に比べると身体への負担が少なくなるという点がメリットになりますが、デメリットとしてがん細胞や患者本来の免疫担当細胞が移植後にも残る可能性があります。

残ったがん細胞や免疫担当細胞によって、病状が再発したり移植後のドナーの細胞を攻撃する拒絶反応が出たりする可能性があります。

高Ca血症に対する治療

高カルシウム血症は意識障害や不整脈をきたし、ときに直接試飲ともなる重要な合併症になります。

急いで低下させる場合は、生理食塩水と利尿剤を使うことで強制的に利尿してカルシウムを排泄します。

骨からのカルシウム放出をおくらせるために、ビスホスホネートやカルシトニンが使われることもあります。

成人T細胞白血病の参考文献

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
上野御徒町こころみクリニックでは、血液患者さんの治療と社会生活の両立を目指し、大学病院と夜間連携診療を行っています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

(医)こころみ採用HP (株)こころみらいHP

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年5月12日

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