ボシュリフ(ボスチニブ)の効果と副作用
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ボシュリフ(一般名:ボスチニブ水和物)は、慢性骨髄性白血病(Chronic myelogenous leukemia: CML)の治療薬です。
ボシュリフは、グリベック(イマチニブ)などほかの同じタイプで治療がうまくいかない場合に、2014年に適応が認められたお薬です。
発売当初はセカンドライン以降のみの適応でしたが、その後適応拡大されて、現在は初回から使うことができるようになっています。
ここでは、ボシュリフの効果と副作用について、その作用の仕組みから詳しく説明します。
ボシュリフ(ボスチニブ)とは?
ボシュリフは、慢性骨髄性白血病の治療薬として開発されたチロシンキナーゼ(酵素)阻害剤(Tyrosine kinase inhibitor: TKI)で、BCR-ABLチロシンキナーゼとその下流のSrcチロシンキナーゼに選択的に働きます。
ボシュリフは商品名で先発品として発売されていますが、一般名(成分名)はボスチニブになります。
ジェネリック医薬品(後発品)については、2023年現在では発売となっていません。
慢性骨髄性白血病治療のこれまでの第1選択薬(グリベック、タシグナ、スプリセル)が効かなかったり、副作用が重すぎたりして投与中断を余儀なくされることもあります。
このような患者さんではBCR-ABLチロシンキナーゼに突然変異が生じてしまい、うまくお薬が結合できなくなっている可能性があります。
ボシュリフはこのような場合にも有効性が認められており、2次治療や3次治療で使われてきましたが、現在では一次治療から使うこともできるようになりました。
ボシュリフの適応と効果
ボシュリフ(一般名:ボスチニブ)の正式適応としては、以下が認められています。
慢性骨髄性白血病では、フィラデルフィア染色体が陽性であることがほとんどです。
フィラデルフィア染色体とは、22番染色体と9番染色体が途中で切れ、切断部分同士が付くことにより異常が生じた22番染色体のことです。
ボシュリフの効果
ボシュリフが白血病細胞の増殖を抑制するのは、BCR-ABLチロシンキナーゼやSrcチロシンキナーゼに結合して、チロシンキナーゼのリン酸化を阻害するためです。
慢性骨髄性白血病では染色体に異常な変化が生じ、フィラデルフィア染色体が発現しています。
このフィラデルフィア染色体が作り出すBCR-ABLというチロシンキナーゼ融合タンパク質が慢性骨髄性白血病の原因となります。
BCR-ABLチロシンキナーゼに体内にある「ATP」という物質が結合すると、核内の増殖シグナルが恒常的に伝わり、白血病細胞の無秩序な増殖が起こります。
がん細胞の増殖をボスチニブが抑えるのは、ATPの代わりにチロシンキナーゼに結合するからです。
GISTは適応外
ボシュリフは、消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor: GIST)の適応は承認されていません。
同じチロシンキナーゼ阻害薬では、グリベック(一般名:イマチニブ)のみが承認されています。
ボシュリフの用法
ボシュリフの用法は、以下のようになっています。
- 2次治療以降の慢性骨髄性白血病
:1日1回500mg(最高600mg) - 初発の慢性骨髄性白血病
1日1回400mg(最高600mg)
ボシュリフの副作用
分子標的治療薬ボシュリフの副作用で多いのは、肝機能障害と下痢です。
ボシュリフでも骨髄抑制および体液貯留の副作用が発現しますが、他の第二世代チロシンキナーゼ阻害薬と比べて発現率が低い傾向です。
これは他のチロシンキナーゼ阻害薬は、KITやPDGFRαなどの血小板由来成長因子(PDGF)受容体ファミリーに阻害作用を示しますが、ボシュリフはほとんど阻害しないためです。
また、発疹や頭痛という、他のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)でも認められる副作用もあります。
肝障害
肝機能障害は、特に日本人で発症頻度が高いことがわかっています。
特に投与開始後2か月間は、頻回に(2週間に1回)肝機能検査を行う必要があります。
皮膚や眼球結膜(白目)が黄色くなる、尿の色が濃くなる、疲れやすい、だるいなどの症状が現れた場合は、担当医に相談しましょう。
下痢
下痢は約8割の患者にみられ、重症が1割程度と報告されています。
投与開始後に早期から発現し(発現中央値は投与開始後1~3日)、持続することがあります。
下痢が現れた場合は十分な水分摂取を行ってください。
下痢止めを使用しながら、投薬を継続することもあります。
主な副作用と頻度
ボシュリフの主な副作用と頻度は、以下のように報告されています。(ボシュリフ錠 100 mg に係る医薬品リスク管理計画書 1,367例)
- 肝障害(37.8%):ALT増加(27.2%)、AST増加(21.6%)、血中ALP増加(6.7%)
- 胃腸障害(85.0%):下痢(79.4%)、悪心(41.0%)、嘔吐(33.0%)
- 体液貯留(20.8%):胸水(9.7%)、末梢性浮腫(8.0%)、浮腫(3.7%)、心嚢液貯留(3.2%)、末梢腫脹(1.4%)
- 骨髄抑制(50.8%):血小板減少症(27.1%)、貧血(23.8%)、好中球減少症(13.2%)、発熱(5.7%)
- 心臓障害(13.7%):心嚢液貯留(3.2%)、心房細動(1.8%)、狭心症(1.5%)、うっ血性心不全(1.4%)、心電図 QT延長(1.2%)、頻脈(1.1%)、心不全(1.0%)
- 出血(18.5%):鼻出血(2.9%)、挫傷(2.1%)、血腫(1.8%)、血尿(1.5%)、血便排泄(1.0%)
- 発疹(39.5%)
- 膵炎/リパーゼ増加(14.6%)
- 頭痛(7.9%)
※通常の抗がん剤で報告の多い脱毛は、ボシュリフでは報告がほとんどありません(1,209例で0.02%*)。
ボシュリフの主な副作用の発現時期
ボシュリフの主な副作用の発現時期は以下の通りです。
- 肝機能障害(15–43日)
- 胃腸障害:下痢(1–3日)、悪心(3.5–10日)、嘔吐(8–11日)
- 体液貯留:心嚢液貯留/胸水(71.0–594.0日)、浮腫(83.5–585.0日)
- 骨髄抑制:貧血(21–29日)、血小板減少症(15–28日)、好中球減少症(29–61.5日)
妊娠と授乳
妊婦または妊娠している可能性のある女性は、服用を避けることとされています。
また妊娠可能な女性は、本剤投与中及び最終投与後、少なくとも1か月間は適切な避妊が必要です。
妊娠を希望される場合は、チロシンキナーゼ阻害薬はおそらく受精には問題とならないので、妊娠が判明するまでは内服していただき、その後インターフェロンに切り替えて治療する方法が考えられます。
これは動物試験で、生存胎児数の減少や催奇形性等が報告されているためです。
また授乳についても、避けることとされています。
通常量の2.5倍以上の動物実験ですが、出生児へ乳汁を介した影響認められたとの報告があるためです。
ボシュリフの薬価
ボシュリフは、後発品であるジェネリック医薬品は発売されていません。※2023年4月現在
- 先発品(ボシュリフ)3,861.20円
- 後発品:未発売
1日500mg服用すると、月約49万円(3,261円×5×30日)です(「高額療養費制度」などの適用があるので支払う額とは異なります)。
まとめ
- ボシュリフはCML発症に関与するBCR-ABL及びSrcチロシンキナーゼ活性を阻害することにより、白血病細胞の増殖を抑制します。
- 慢性骨髄性白血病の適応が承認されています。
- ボシュリフの副作用で多いのは、肝機能障害と下痢です。
- ボシュリフ錠の薬価は、100mg1錠で3,861.20円です。
執筆者紹介
由井 俊輔
上野御徒町こころみクリニック院長
血液専門医/総合内科専門医/日本内科学会認定内科医/日本医師会認定産業医/がん治療認定医/造血細胞移植認定医/難病指定医
監修者紹介
山口 博樹
日本医科大学血液内科 大学院教授
上野御徒町こころみクリニック顧問
血液専門医/血液指導医/がん治療認定医/造血細胞移植認定医/骨髄移植推進財団ドナー調整医師/総合内科専門医/総合内科指導医/日本内科学会認定内科医
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年1月25日
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