キャッスルマン病の症状・診断・治療
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キャッスルマン病とは
キャッスルマン病とは難病指定された良性(非癌性)の血液疾患のひとつで、リンパ節やリンパ組織において異常な増殖が起こる病気です。
キャッスルマン病で異常増殖するリンパ系とは、異物から身体を守る免疫系の組織です。
そのため、一部のキャッスルマン病では身体の中の免疫反応が優位となり、まるで異物と戦っているような炎症状態が全身に生じているようになります。
この全身の炎症状態は、同じ型であっても程度によって異なり、無症状~急速に進行し重症化するものもあります。
免疫系細胞の一つである炎症性サイトカイン(特にインターロイキン-6)の過剰分泌や、ヒトヘルペスウイルス-8(HHV-8)というウイルスが原因の一部として関連していることが考えられています。
しかし、キャッスルマン病自体が発生率の低いまれな疾患であり、明らかな発症の原因は解明されていません。
キャッスルマン病は、単中心性と多中心性という型に大きく分類されます。
単中心性の場合は病変リンパ腫が限局しているので、外科的に取り除けば治癒します。
しかし、多中心性の場合は病変リンパ腫が全身に広がっているため、症状や治療が複雑になり、治癒は難しいとされています。
基本的に慢性の経過をたどり、確立された根治治療はないので、対症療法を生涯にわたり継続することになります。
キャッスルマン病の症状と予後
キャッスルマン病の症状
キャッスルマン病の症状は、分類された型によって異なります (分類の詳細は後述)
単中心性(限局型)キャッスルマン病(UCD)
- 無症状
- 一つの特定のリンパ節の腫れ
単中心型キャッスルマン病の場合は、症状がほとんどないので別の疾患の検査などで偶然に発見されることが多いです
多中心性キャッスルマン病(MCD)
- 発熱 B症状
- 夜間の発汗(盗汗) B症状
- 体重減少 B症状
- 疲労感
- 各種リンパ節の腫大
- 肝臓や脾臓の腫大など
- 皮膚の発疹
- 貧血
- 免疫不全状態 など
多くはB症状や貧血などが発症の始まりとなり、緩徐に進行します。
しかし一部では、感染を契機に敗血症や多臓器不全となり、命に関わる様な重症化を来す場合もあります。
多中心性キャッスルマン病は、特発性多発性キャッスルマン病(iMCD)とHHV-8関連キャッスルマン病(HHV-8関連MCD)、POEMS関連MCDにさらに分類されます。
特発性多発性キャッスルマン病の患者さんの一部では、特異的にTAFRO症候群という症状がみられることがあります。
TAFRO症候群とは症状の頭文字をとったもので、
- Trombocytopenia(血小板減少)
- Anasarca(全身の浮腫)
- Fever(発熱)
- Reticulin fibrosis or Renal dysfunction(網状線維症または腎機能障害)
- Organomegaly(器官肥大)
キャッスルマン病の予後
単中心性キャッスルマン病の予後は、病変リンパ節を完全に取り除くことができれば完治し予後は良好と言えます。
多中心性キャッスルマン病の予後は、トシリズマブ(商品名:アクテムラ)という有効な治療薬が開発され、10年全生存率は90%以上と予後が大幅に改善されたという報告があります。
ただし、TAFRO症候群を伴う場合は急速に腎不全が進行し、予後が不良となる場合もあります。
キャッスルマン病の診断と分類
キャッスルマン病の診断は、問診、身体所見、画像検査、組織検査などの情報を総合的に評価して行われます。
上記の検査を行い、腫大したリンパ節からキャッスルマン病特有の所見(硝子血管型・形質細胞型)が見られれば、確定診断となります。
ただし、特にiMCDの場合は、類似した症状やリンパ節腫大を生じさせる疾患が多数あるため、それらの類似疾患を正確に除外できるかが重要となります。
キャッスルマン病の診断基準は、一般的に国際的な専門家グループによって策定された「Castleman’s Disease Collaborative Network (CDCN)」によって提案されています。
日本での診断基準は、このCDCNの提案を基にキャッスルマン病研究班が下記の様に定められています。
AおよびBを満たすものをキャッスルマン病と診断する。
A 以下の2項目を満たす。
- 腫大した(長径1 cm以上の)リンパ節を認める。
- リンパ節または臓器の病理組織所見が、下記のいずれかのキャッスルマン病の組織像に合致する。
- 硝子血管型
- 形質細胞型
- 硝子血管型と形質細胞型の混合型
B リンパ節腫大の原因として、以下の疾患が除外できる。
- 悪性腫瘍
血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、濾胞樹状細胞肉腫、腎がん、悪性中皮腫、肺がん、子宮頸がんなど。 - 感染症
非結核性抗酸菌症、ねこひっかき病、リケッチア感染症、トキソプラズマ感染症、真菌性リンパ節炎、伝染性単核球症、慢性活動性EBウイルス感染症、急性HIV感染症など。 - 自己免疫疾患
SLE、関節リウマチ、シェーグレン症候群など。 - その他の類似した症候を呈する疾患
IgG4関連疾患¶、組織球性壊死性リンパ節炎、サルコイドーシス、特発性門脈圧亢進症など。
キャッスルマン病の分類
キャッスルマン病は、さらに以下の様に分類できます。
それぞれの特徴を簡単に説明します。
単中心性(UCD)
- 病変リンパ腫が1箇所に限局している
- 病理組織所見が該当する(多くは硝子血管型)
HHV-8関連MCD
- 全身に病変リンパ節が存在する
- ヒトヘルペスウイルス8(HHV-8)によって引き起こされ、血中または病変組織中からHHV-8の遺伝子が検出される
- 日本では極めてまれとされており、主にHIV感染者にみられる
- この病型は、発熱・盗汗・全身倦怠感などの全身の炎症症状を呈し、急速に進行し、しばしばカポジ肉腫や悪性リンパ腫を合併する
特発性MCD(iMCD)
- 全身に病変リンパ節が存在する
- 感染や腫瘍など他の明確な原因がなく、病理組織検査や臨床症状が該当する
- 組織像の違いによって「血管増殖型」「混合型」「形質細胞型」とさらに分類できる
POEMS関連MCD
- 全身に病変リンパ節が存在する
- iMCDのサブタイプとも言うことができる
- iMCDの典型的な症状に加えて、POEMS症候群に特有の神経障害、内分泌異常、皮膚変化などが存在する
※POEMS症候群とは、多発性神経障害(Polyneuropathy)、臓器腫大(Organomegaly)、内分泌異常(Endocrinopathy)、Mタンパク(M-protein)、皮膚症状(Skin changes)の頭文字をとったもの
- 多発性神経障害:感覚障害、筋力低下、痛み、しびれ、運動障害など
- 臓器腫大 :肝臓、脾臓、リンパ節などの腫大
- 内分泌異常:性腺機能の低下、甲状腺機能の異常、副腎皮質機能の低下など
- Mタンパク :正常な抗体機能を持たない異常な免疫グロブリン
- 皮膚症状 :皮膚の色素沈着や水疱など
キャッスルマン病には特有の組織像があり、「血管増殖型」「混合型」「形質細胞型」にさらに分類できる
キャッスルマン病の治療
キャッスルマン病の治療は、単中心性か多中心性かによって治療が大きく異なります。
単中心性キャッスルマン病の治療
通常、外科的手術が治療の第一選択になります。手術によって腫れたリンパ節を切除することで治療されます。
外科切除後に再発した場合や病変が切除困難な場所にある場合は、放射線療法で腫れたリンパ節の縮小を期待します。
多中心性キャッスルマン病の治療
多中心性の場合、病型や症状の重症度に応じて治療法は個別に決定されます。
症状がない、または、症状が軽微な場合には経過観察となります。
しかし、症状があって治療を開始されることになっても根治治療があるわけではなく、基本的には対症療法が治療の中心となります。
対症療法では、免疫抑制薬や炎症抑制薬の使用が考慮され、一部の患者には化学療法や放射線療法も検討されることがあります。
また、HHV-8に対する抗ウイルス薬の使用も一部の患者に効果があるとされています。
治療が開始されるとその治療を生涯にわたって続けることになります。
病型については先の分類の頁で説明しました。重症度については、下記の基準によって判別します。
重症 | 中等症 | 軽症 | |
---|---|---|---|
炎症性貧血 | Hb<7g/dL または 赤血球輸血依存性 |
7g/dL≦Hb<8g/dL | 左記のいずれも該当なし |
血小板減少 | 血小板輸血不応 または 血小板輸血依存性 |
血小板数<2万/μL | |
低Alb血症 | Alb<1.5g/dL | 1.5≦Alb<2.0 | |
腎機能障害 | GFR<15ml/分/1.73㎡ またはネフローゼ症候群 |
CKD重症度分類 ヒートマップで赤の部分 |
|
肺病変 | 間質性肺陰影+ かつ 安静時酸素吸入を要する |
間質性肺陰影+ かつ 軽い労作で呼吸困難 |
|
胸腹水 | ドレナージを要する | 画像上明らか | |
心不全 | EF<40% または NYHAⅣ度 |
40%≦EF<50% または NYHAⅢ度 |
|
アミロイドーシス | 組織学的に証明された二次性 アミロイドーシスによる臓器障害あり |
【HHV-8関連MCDの治療】
治療の主な目標は、HHV-8の増殖を抑制することになります。抗がん剤・抗ウイルス薬・分子標的薬・抗HIV薬を組み合わせた3剤を用いた治療を行います。
- ジドブジシン(AZT)+バルガンシクロビル+リツキシマブ
- リツキシマブ+塩酸ドキソルビシン+抗HIV薬
寛解後の維持療法としてはインターフェロンまたは、高容量AZTが用いられます
【iMCDの治療】
インターロイキン-6(IL-6)遮断薬や免疫抑制剤を用いた治療が行われますが、症状の重症度や個々の症例に応じて治療のアプローチが異なります。
※IL-6遮断薬であるトシリズマブやサリツマブは、炎症性サイトカインの過剰な放出を抑制し、症状の改善や疾患の進行抑制を目的としています。
※免疫抑制剤であるステロイドやシクロスポリン、タクロリムスなどの薬剤は、免疫系の異常を抑制することで症状の軽減や疾患の進行抑制を目的としています。
軽度の場合
免疫抑制療法で症状の緩和を図り、症状が改善すれば徐々に減量をしていきます。
免疫抑制療法を長期間行う場合は、糖尿病や骨粗しょう症、感染症に注意が必要となります。
中等度以上の場合
炎症所見が強く、臓器に重篤な障害を有する場合は、免疫抑制療法と併用してトシリズマブ(Il-6遮断薬)を用いた治療が検討されます。
トシリズマブ(商品名:アクテムラ)は、MCDに関する臨床試験において国内で唯一有効性が確認できている薬剤で、保険収載されています。
トシリズマブを使用し始めると、全身で見られていた様々な炎症症状や検査異常値が改善されます。
そのため、新たに感染症に罹患しても炎症所見が検査値として反映されなくなります。
キャッスルマン病自体が全身に炎症を生じさせる疾患となるので、そこに感染症が加わると急速に敗血症や多臓器不全へと進行する可能性があるので、感染症を見逃さないように十分に観察することが必要となります。
【POEMS関連MCD】
POEMS関連MCDではiMCDの症状に加えて、さらにさまざまな症状や合併症が存在します。
そのためPOEMS関連MCDでは、中等度以上のiMCDの治療に加えて抗がん剤療法・放射線療法・対症療法が行われます。
抗がん剤は、メルファランやレナリドミドを使用し、腫瘍細胞の成長を抑制し、症状の改善や疾患の進行抑制を期待します。
同時に疼痛管理、神経障害の治療、内分泌異常の補正、血液異常の管理など、それぞれの症状・所見に応じた対症療法が行われます。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年6月7日
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