ダラザレックス(一般名:ダラツムマブ)の効果と副作用

ダラザレックスの効果について、血液専門医が詳しく解説します。

ダラザレックス(一般名:ダラツムマブ)は、多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の治療薬です。

多発性骨髄腫とは、血液細胞の一つである形質細胞が異常に増殖する病気です。

日本では2017年11月に点滴静注製剤が販売開始となり、その後、2021年5月に投与時間を大幅に短縮することができるダラキューロという皮下注射用の製剤が販売開始となりました。

ここでは、ダラザレックスの効果や副作用について、その作用の仕組みから詳しく説明します。

多発性骨髄腫については、以下をお読みください。

多発性骨髄腫(MM)

ダラザレックス(一般名:ダラツムマブ)とは?

ダラザレックスは、多発性骨髄腫の治療薬として開発された、抗CD38モノクローナル抗体製剤です。

CDとはCluster of differentiationの略で、白血球などの細胞表面にでている目印です。この目印があることで、異なる細胞を区別したり、正常な細胞と異常な細胞とを区別していたりします。

CDの種類はとても多く、300種類以上が確認されています。

ダラザレックスは、CD38に作用するよう開発された初の薬剤で、販売当初は再発してしまった患者さんや治療がうまくいかない患者さんにしか使用できない薬剤でした。

しかし、その後いくつかの臨床試験の結果をもとに、未治療の患者さんにも使用できるようになりました。

ダラザレックスの適応と効果

ダラザレックスの正式適応としては、以下が認められています。

  • 多発性骨髄腫

※ダラキューロ配合皮下注では、上記に加えて「全身性ALアミロイドーシス」にも適応があります。

ダラザレックスの効果

ダラザレックスは、腫瘍細胞表面にあるCD38に結合することで、以下のような複数の働きによって腫瘍細胞の増殖を抑制してくれます。

  • 補体依存性細胞障害(CDC:Complement Dependent Cytotoxicity)作用
  • 抗体依存性細胞障害(ADCC:Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity)作用
  • 抗体依存性細胞貪食(ADCP:Antibody dependent Cell Mediated Phagocytosis)作用

通常、体内に入った細菌等の異物は、免疫細胞に食べられたり(貪食)、破壊されたりすることにより除去されます。

ダラザレックスは、それらの免疫機構を利用することで効果をみせます。

ダラザレックスの用法

ダラザレックスの用法は、以下です。

  • 1回体重1kgあたり16mgを点滴静注(※初回は8mg/kgずつ、2日に分割投与可)

併用する抗悪性腫瘍剤の投与サイクルを考慮して、以下のA法もしくはB法の投与間隔になります。

  • A法:1週間隔、2週間隔及び4週間隔の順で投与する。
  • B法:1週間隔、3週間隔及び4週間隔の順で投与する。

点滴の速度に関しては、初めて注射する場合は後述するインフュージョンリアクションという副作用を防ぐため、とてもゆっくり点滴します。

初回は最短で終わったとしても、ダラザレックス100ml投与するには6時間半程かかることになります。

2回目以降は少し早めに点滴できますが、それでも2~3時間はかかってしまいます。

なお、ダラキューロ皮下注の場合は、初回投与でも腹部に3~5分かけて15mLを皮下注射するだけで終了となります。

ダラザレックスの副作用

ダラザレックスの副作用で多いのは、インフュージョンリアクションです。

インフュージョンリアクション(IRR:infusion related reaction)

ダラザレックスの副作用について、血液専門医が詳しく解説します。

抗体製剤等の分子標的治療薬を投与する際に多く見られえる副作用で、アレルギー症状とよく似た症状があらわれます。

そのため、点滴を開始する1~3時間前に抗アレルギー薬や副腎皮質ホルモン薬を、服用したり注射したりします。

インフュージョンリアクションがどうして起きるのか正確なところまではまだ解明されていませんが、免疫等にかかわる体内物質の過剰分泌が原因ではないかと考えられています。

主な症状として、鼻閉、寒気がしてその後に熱が出る、呼吸が苦しい感じがする、湿疹がでるなどがあります。

ダラザレックスによるインフュージョンリアクションでは、

  • 呼吸が苦しい感じがする(呼吸困難)
  • 咳が出る(咳嗽)
  • 寒気がする(悪寒)
  • 発熱

等の症状が比較的多く報告されています。

ダラザレックス投与によるインフュージョンリアクションの症状別報告頻度は、呼吸困難や咳嗽等の呼吸器症状の頻度が比較的多いため、慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の治療中もしくは既往のある患者さんに使用する場合、慎重に投与することが推奨されています。

発現時期は、一番起こりやすいのが投与開始後80~157分(7~4370分)と報告されています。(ダラザレックス点滴静注 審査報告書より)

主な副作用と頻度

ダラザレックスの主な副作用と頻度は、以下のように報告されています。

“ダラザレックス点滴静注 インタビューフォームより引用・改変”

※ダラザレックスは他の抗悪性腫瘍剤と一緒に使用するお薬であり、副作用の状況を検討した試験も他の抗悪性腫瘍薬と一緒に使用した時のものであるため、これから記載する副作用は治療全体で起こりうる副作用と思っていただければと思います。

主要な第Ⅲ相試験における症例1531例のうち副作用発現症例数1096例(71.6%)

  • インフュージョンリアクション(46.4%):呼吸器症状(22.1%)、全身状態の障害(15.5%)、胃腸障害(11.1%)等 ※投与開始日から翌日までに発現した事象
  • 骨髄抑制(33.2 %):血小板減少(17.6%)、好中球減少(16.1%)、貧血(10.0%)等
  • 全身状態の障害(28.9%):疲労(11.0%)、発熱(7.5%)、悪寒(5.4%)等
  • 呼吸器系障害(27.4%):呼吸困難(10.1%)、咳嗽(8.8%)等
  • 感染症(21.9%):上気道感染(9.1%)、肺炎(6.9%)、気管支炎(4.2%)等
  • 胃腸障害(20.7%):悪心(8.2%)、下痢(7.6%)、嘔吐(5.5%)、便秘(2.7%)等
  • 神経系障害(12.1%):頭痛(3.4%)、末梢性感覚ニューロパチー(2.1%)等

※通常の抗がん剤で報告の多い脱毛は、ダラツムマブを用いた併用療法では報告がほとんどありません(1531例中で0.3%)

その他注意事項

ダラザレックスのような抗CD38モノクローナル抗体製剤は、間接クームス試験へ干渉することや抗体製剤でみられるB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されています。

間接クームス試験とは

間接クームス試験(間接抗グロブリン試験)とは、輸血の適合性を調べる方法の一つです。

そのため、ダラザレックスの投与を受ける患者さんは、ダラザレックス投与を受ける前に輸血に関する検査を行い、注意喚起のためのカードの携帯をすすめられます。

B型肝炎ウイルスの再活性化とは

B型肝炎ウイルスの再活性化とは、体の中にウイルスはいるが悪さをしていなかった状態から、何かしらの要因でウイルスが元気になってしまい、悪さをはじめることを言います。

そのため、ダラザレックス投与前にはB型肝炎への感染状況の確認を行い、必要に応じて飲み薬の追加や消化器内科への紹介等が検討される場合があります。

妊娠と授乳

妊婦または妊娠している可能性のある女性には、ダラザレックスを投与する方がよりよい結果になると判断される場合にのみ、使用することが許容されます。

授乳については、上記と同様、より良い結果になると思われる場合は使用を検討してもよいとされています。

実際に催奇形性のリスクがあるかどうかや乳汁中への移行は明らかになっておりませんが、役割のよく似た成分が胎盤や乳汁中に移行することが知られているため注意が必要です。

また、妊娠可能な女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性は、ダラツムマブの投与した最後の日より3か月間は避妊するよう推奨されています。

ダラツムマブ及びダラキューロの薬価

ダラザレックス及びダラキューロの薬価は、以下の通りです。 ※2023年3月現在

  • ダラツムマブ点滴静注100mg:52,262 円
  • ダラツムマブ点滴静注400mg:187,970 円
  • ダラキューロ配合皮下注15ml:445,064 円

まとめ

  • ダラザレックスは多発性骨髄腫に使用する分子標的薬で、形質細胞表面にある目印の一つであるCD38にくっつくことで細胞の増殖を抑制します。
  • 点滴静注製剤は「多発性骨髄腫」に、皮下注製剤はそれに加えて「全身性ALアミロイドーシス」の適応があります。
  • ダラザレックスの副作用で多いのは、インフュージョンリアクションです。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
上野御徒町こころみクリニックでは、血液患者さんの治療と社会生活の両立を目指し、大学病院と夜間連携診療を行っています。
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執筆者紹介

由井 俊輔

上野御徒町こころみクリニック 院長/日本医科大学血液内科 講師・医長

日本内科学会/日本血液学会/日本造血細胞移植学会/日本感染症学会

血液専門医/総合内科専門医/日本内科学会認定内科医/日本医師会認定産業医/がん治療認定医/造血細胞移植認定医/難病指定医

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執筆者紹介

山口 博樹

日本医科大学血液内科 大学院教授/上野御徒町こころみクリニック 顧問

日本内科学会/日本血液学会(評議員)/日本造血・免疫細胞療法学会(評議員)

総合内科専門医/総合内科指導医/日本内科学会認定内科医/血液専門医/血液指導医/がん治療認定医/造血細胞移植認定医/骨髄移植推進財団ドナー調整医師

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年3月30日

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