スプリセル(ダサチニブ)とは?
ダサチニブは、いわゆる抗がん剤のひとつで、チロシンキナーゼ(酵素)阻害剤(Tyrosine kinase inhibitor: TKI)と呼ばれる特定のターゲットに働く分子標的薬です。
スプリセル錠という商品名がつけられ、先発品として使われてきました。
いまではジェネリック医薬品(後発品)としてダサチニブ錠も発売されています。
CMLでは9番と22番の染色体に異常な変化が生じ、フィラデルフィア染色体が発現します。
このフィラデルフィア染色体が作り出すBCR-ABLというチロシンキナーゼ融合タンパク質に、体内にある「ATP」という物質が結合すると、白血病の無秩序な細胞増殖が起こります。
ダサチニブが腫瘍細胞の増殖を抑えるのは、ATPの代わりに酵素チロシンキナーゼに結合するからです。
その他にもSrc蛋白(サーク蛋白)といった白血病に関係する蛋白質にも結合し、働きを抑えることが期待できます。
CML治療の第1選択薬は複数のチロシンキナーゼ阻害薬(グリベック、タシグナ、スプリセル、ボシュリフなど)がありますが、どれか1つに決めるにあたっては、現在のところ明確な基準はありません。
各チロシンキナーゼ阻害薬はそれぞれ副作用が異なっているので、脳梗塞、血栓症、高血圧症など他の病気を持つ患者さんに対しては、合併症を考慮して使い分けます。
また、チロシンキナーゼ阻害薬のいずれも効果がい場合や、副作用が重度で使い続けられない場合に、造血幹細胞移植が検討されます。
スプリセルの適応と効果
スプリセル(一般名:ダサチニブ)の正式適応としては、以下が認められています。
白血病の治療薬としての効果
慢性骨髄性白血病、再発又は難治性フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病への適応が承認されています。
どちらの病気もフィラデルフィア染色体が陽性という点で共通しています。
フィラデルフィア染色体とは、22番染色体と9番染色体が途中で切れ、切断部分同士が付くことにより異常が生じた22番染色体のことです。
GISTは適応外
スプリセルは、 消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor: GIST)の適応は承認されていません。
同じチロシンキナーゼ阻害薬のうち、グリベック(一般名:イマチニブ)が承認されています。
スプリセルの用法
スプリセル(一般名:ダサチニブ)の用法は、以下のようになっています。
- 慢性骨髄性白血病
【慢性期】
1日1回100mg(最高140mgまで)
【移行期・急性期】
1回70mgを1日2回(最高180mgまで)
- 急性リンパ性白血病
1回70mgを1日2回(最高180mgまで)
スプリセル(ダサチニブ)の添付文章
スプリセル(ダサチニブ)の製薬会社パンフレット
スプリセルの副作用
一般的な抗がん薬の場合は、正常細胞の中でも増殖が盛んな細胞が影響を受けます。
例えば髪の毛や消化管の細胞などが影響を受け、脱毛や吐き気といった副作用が起こります。
なぜなら一般的な抗がん剤は、がん細胞も正常細胞も両方を区別なく攻撃するからです。
その一方で分子標的薬は、がん細胞だけを攻撃して正常細胞にダメージを与えずに、がんを抑える効果が期待されていました。
しかしながら、一般的な抗がん薬とは違う様々な副作用が出現することがわかってきました。
ここでは、分子標的薬であるスプリセルに発現する副作用について説明します。
主な副作用と頻度
スプリセルの副作用として多いのは、白血球や血小板、赤血球が影響を受けて骨髄抑制を起こすことです。
そして頻度が多いのが、胸水貯留やむくみです。
息苦しさや咳などが認められた場合は、レントゲンで評価することが必要です。
さらに消化管出血、間質性肺疾患、心電図異常をきたすこともあるので、注意が必要です。
また発疹や頭痛といった副作用もあります。
基本的には、レントゲンと心電図を定期的に行っていくことで副作用を確認していきます。
スプリセルの主な副作用と頻度は、以下のように報告されています。(スプリセル錠20mg・50mg使用成績調査 897例)
- 骨髄抑制:白血球減少(32.6%)・好中球減少(27.5%)・血小板減少(46.7%)・貧血(38.4%)・発熱(7.1%)
- 体液貯留:胸水(33.4%)・肺水腫(1.2%)・心嚢液貯留(2.3%)・腹水(1.2%)・全身性浮腫(8.9%)・末梢性浮腫(3.0%)・顔面浮腫(2.1%)
- 胃腸障害:下痢(12.3%)・悪心嘔吐(6.6%+3.2%)・胃腸出血(8.5%)
- 発疹(8.0%)
- 頭痛(4.1%)
- 間質性肺疾患(3.6%)
- 心電図QT延長(2.3%)
※通常の抗がん剤で報告の多い脱毛は、スプリセルでは報告がほとんどありません。(0.2%)
妊娠と授乳
妊娠に関しては、男女問わずに避けることとされています。
これは妊娠中に服用した患者さんで、奇形や胎児水腫などの胎児毒性(頻度不明)の報告があるためです。
このためスプリセルによる治療中は、避妊が必要となります。
妊娠を希望される場合は、チロシンキナーゼ阻害薬はおそらく受精には問題とならないので、妊娠が判明するまでは内服していただき、その後インターフェロンに切り替えて治療する方法が考えられます。
授乳についても、ラットの動物実験で母乳移行が確認されているため、避けることとされています。
副作用の発現時期
スプリセルの主な副作用は、投与後8週間までに認められることがほとんどです。
体液貯留は8週以降も一定の割合で発現するので、しばらく服用していても注意が必要となります。