二次性多血症の症状・診断・治療
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二次性多血症とは?
二次性多血症とは、血液の疾患以外の原因によって血液中の赤血球が増える病気です。
赤血球が増加すると血液の粘性が強くなり、細い血管を通過しにくくなります。
血流が悪くなり血液がうっ滞すると血栓ができやすくなりますが、できた血栓によって心臓・脳・肺などの血管が塞がれると致命的になります。
症状と特徴
赤血球が異常増殖することによって、血液が濃くなり血液粘性が上昇します。
それによって血液うっ滞や循環不全が生じ、下記の症状が出現します。
- 頭痛
- めまい
- 視力障害
- 赤ら顔
- 高血圧
- 血栓症
- 手足を温めたときに感じる痒み
- 熱くピリピリとした感覚(しゃく熱感)
- ひざや足などの関節がはれて痛みが出る
二次性多血症の診断
健康診断などでの血液検査で以下の異常値が認められると、多血症が疑われます。
- 赤血球数:600万/μL(男性)・550万/μL(女性)
- ヘモグロビン濃度:18g/dL(男性)・16g/dL(女性)
- ヘマトクリット:55%(男性)・50%(女性)
※ただし、すべての異常値が認められるとは限りません。
必要に応じて下記の検査を行い、診断されます。
- 血液検査:赤血球の数・形状、Hb、Ht、肝機能、腎機能
- 骨髄検査:赤血球が増加するような他の血液疾患の有無
- 画像検査:胸部・腹部CTで、肺の状態の評価や腎疾患やエリスロポエチン産生腫瘍の有無を調べる
- パルスオキシメーター:SpO2(血液中のHbが酸素と結合している割合)
- 血清エリスロポエチン濃度の測定
多血症の分類
多血症は、血液中に存在する赤血球の量(循環赤血球量)によって、絶対的多血症と相対的多血症に分けることができます。
- 絶対的赤血球増多症:循環赤血球量が増加している状態
- 相対的赤血球増多症:循環血漿量が減少していて、相対的に赤血球が増加しているように見える状態(循環赤血球量は普通)
これは、ヘマトクリットの値を見ることでわかります。ヘマトクリットとは、血液中に赤血球が占める割合(%)で、通常の採血で測定できます。
これが高ければ絶対的赤血球増多症、高くなければ相対的赤血球増多症になります。
二次性多血症の原因
二次性多血症の原因は大きく、以下の2つに大別されます。
- 組織の低酸素状態
- エリスロポエチン産生の異常亢進
エリスロポエチンとは赤血球の分化産生を促進するホルモンで、いずれの二次性多血症の場合でも、エリスロポエチンが増加しています。
2つの原因によってエリスロポエチンが高まり、結果として赤血球が増加しているのが二次性赤血球増多症になります。
一方で真性多血症では赤血球の幹細胞が増殖してしまっている状態なので、多くなりすぎて赤血球をつくる必要がなくなるので、エリスロポエチンは低値になります。
相対的赤血球増多症とは?
見せかけだけ赤血球が増加しているようにみえますが、循環血漿量が減少しているために増加しているように見えるだけの状態です。
下痢や嘔吐などによる脱水状態と、ストレス赤血球増多症などが知られています。
若年や中年男性に多い慢性経過の原因不明の場合は、ストレスが原因であることを疑います。
典型的な像としては、赤ら顔でやや小太り、高血圧や不眠があり、ほぼ全例で喫煙者といわれています。
二次性多血症の2つの原因
それでは二次性多血症の2つの原因、
- 組織の低酸素状態
- エリスロポエチン産生の異常亢進
について、みていきましょう。
組織の低酸素状態とは?
慢性的に組織の酸素が不足している状態をいい、具体的には以下の要因などが挙げられます。
- 高地滞在
- 先天性心疾患(右左シャントなど)
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD/肺気腫)
- 睡眠時無呼吸症候群などの換気障害
- 酸素運搬障害(メトヘモグロビン血症)
- 喫煙
組織の低酸素状態においては、低酸素状態を改善しようとして赤血球が増加するという病態になります。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、夜間に呼吸状態が悪くなることで低酸素状態となってしまうため、赤血球を増加させてカバーするために多血症となります。
典型的なのは肥満が原因による睡眠時無呼吸症候群で、睡眠時に空気の通り道が閉塞してしまい、イビキや無呼吸といった形で気づかれます。
痩せている方でも体質的に睡眠時無呼吸症候群になる方もいて、多血症から睡眠時無呼吸症候群を疑うこともあります。
喫煙
多血症の最も多い原因といわれていて、タバコを吸っているときに発生する一酸化炭素は、ヘモグロビンとの結びつきやすさが酸素の200倍ともいわれています。
このため酸素を上手く運べなくなり、カバーしようとして赤血球が増加します。
エリスロポエチン産生の異常亢進とは?
何らかの原因でエリスロポエチンが異常増加することを言います。
エリスロポエチンとは、主に腎臓から分泌される造血ホルモンです。骨髄の造血幹細胞に作用し、赤血球の産生をコントロールしています。
組織の酸素欠乏=貧血になるとエリスロポエチンの産生が促進され、造血幹細胞から赤血球が作り出されます。
その後、赤血球の増加によって酸素不足が解消されるとエリスロポエチンの産生は止まり、体内の酸素の需要と供給のバランスを保ちます。
エリスロポエチン産生の異常亢進となる具体的な要因には、以下の疾患が挙げられます。
- 腎疾患(腎動脈狭窄、水腎症など)
- エリスロポエチン産生腫瘍(腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫、褐色細胞腫など)
- cushing症候群
エリスロポエチン産生腫瘍では、本来エリスロポエチンが腎臓で産生・分泌されるにもかかわらず、本来とは異なる場所の腫瘍から異常産生されることで赤血球が増加するという病態になります。
上述しましたが、多血症の「真性多血症」と「二次性多血症」は、エリスロポエチン濃度を基準に診断されます。
エリスロポエチン濃度が増加している場合が二次性多血症、低~正常範囲であれば真性多血症とされます。
二次性多血症の治療法
二次性多血症の治療の流れは以下の2つになります。
- そもそも原因となっている基礎疾患の治療や、禁煙などの生活習慣の改善
- 基礎疾患の治療が難しい場合は、瀉血(しゃけつ)療法や、抗血栓療法
瀉血(しゃけつ療法)とは?
瀉血とは、献血と同じ方法で血液を抜き取り赤血球の数を減らす治療です。
血液を抜き取ることで赤血球の増加による循環障害が改善され、血栓症や出血を予防することができます。
瀉血後にHt値が45%になるように、1日おきに約300~500ccの血液を抜き取ります。
その後、Ht値を正常に保つために、必要に応じて(例えば、1~3カ月おきに)血液を抜き取ります。
低用量アスピリン(抗血栓) 療法とは?
抗血栓薬の1つであるアスピリンを用いて、血栓の予防を行います。
低用量のアスピリンを用いることで、眼性片頭痛や、手足の灼熱痛や発赤などの症状の緩和に役立ちます。
薬にアレルギーがある、消化性潰瘍がある、アスピリン喘息がある場合などは注意が必要です。
しかし、アスピリンで血栓のリスクが低下することが証明されているわけではないので、症状のない人にはアスピリンは有益ではありません。
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カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2022年11月4日
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