グリベック(イマチニブ)の効果と副作用
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、内科外来の特徴と流れ をお読みください。
グリベック(一般名:イマチニブ)は、慢性骨髄性白血病や消化管間質腫瘍などの特定の疾患に使われる抗がん剤です。
腫瘍細胞に特異的に発現するチロシンキナーゼの働きを抑え、腫瘍細胞の増殖を抑えることで効果を発揮します。
今回はグリベックの効果や副作用などについて見ていきましょう。
グリベック(イマチニブ)とは?
イマチニブは、分子標的薬と呼ばれる抗がん剤の1つです。
グリベック錠という商品名で、先発品として長らく発売されてきました。
現在では、ジェネリック医薬品(後発品)としてイマチニブ錠が発売され、薬価も下がっています。
チロシンキナーゼ阻害薬とも呼ばれ、特定のターゲットに絞って働きます。
チロシンキナーゼは、体内の細胞増殖に関わる酵素です。
この酵素の働きを抑え、腫瘍細胞の増殖を抑える作用を持ちます。
グリベックが使われる疾患に、
慢性骨髄性白血病(CML)やKIT陽性消化管間質腫瘍(GIST)などがあります。
これらの疾患の原因である腫瘍細胞に存在するのが「BCR-ABL」や「KIT」と呼ばれる特徴的なチロシンキナーゼです。
グリベックは、この特徴的なチロシンキナーゼを標的にし、効果を発揮します。
グリベックの適応と効果
グリベック(一般名:イマチニブ)は、「BCR-ABL」や「KIT」といった特異的なチロシンキナーゼに作用を発揮します。
このことからグリベックは、
- 慢性骨髄性白血病
- フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
- KIT陽性消化管間質腫瘍(GIST)
- 好酸球増多症候群・慢性好酸球性白血病(FIP1L1-PDGFRα陽性)
といった、特異的なチロシンキナーゼが発現する疾患に対してのみ適応があります。
慢性骨髄性白血病(CML)への効果
慢性骨髄性白血病は、分化能力のある白血病細胞が増殖する血液腫瘍です。
約10万人に1人の割合で発症すると言われています。
通常時は骨髄と呼ばれる場所で正常な白血球が作られますが、慢性骨髄性白血病になると骨髄は、見た目は成熟していますが生化学的には未熟な白血球である白血病細胞で満たされます。
骨髄から血液中に出た白血病細胞はある程度は成熟しますが、白血球の本来の力を発揮できないため、感染症にかかりやすくなることもあります。
さらに進行すると、微熱や全身倦怠感、体重減少などが認められます。
肝臓や脾臓で腫瘍が増殖することで、肝臓腫大や脾臓腫大もおこります。
フィラデルフィア染色体が陽性となっていて、この遺伝子異常はBCR-ABLというチロシンキナーゼ融合タンパク質を作ります。
これが原因となってATPがADPに変換されて、アポトーシスに対する抵抗が増して、白血病細胞が増殖していきます。
Ph陽性急性リンパ性白血病(Ph陽性ALL)への効果
ALLは、血液中のリンパ球になる造血幹細胞の分化能力が失われることで、未熟な芽球が増殖してしまう病気です。
ALLにも予後の良いものと悪いものがありますが、成人の場合は小児に比べて治療成績が劣ります。
ALLのうち、25%程度にフィラデルフィア染色体陽性となり、BCR-ABLが原因となります。
この場合はグリベックの治療効果が期待でき、そのほかの抗がん剤と併用して治療薬とします。
KIT陽性消化管間質腫瘍(GIST)
消化管間質腫瘍は、胃や小腸などの粘膜下にできる悪性腫瘍で、約10万人に1〜2人に発症すると言われています。
消化管内で腫瘍が大きくなり潰瘍を作ると、消化管出血が起こり吐血や下血などの症状が出ます。
治療に関して、切除が可能であれば手術除が行われますが、手術で完全に取り切れない場合や再発した場合にはグリベックの内服を行います。
グリベックの用法
グリベック(一般名:イマチニブ)の用法は、以下のようになっています。
- 慢性骨髄性白血病
【慢性期】
1日1回400mg(最高600mgまで)
【移行期・急性期】
1日1回600mg(400mgを1日2回) - 急性リンパ性白血病
1日1回600mg - GIST
1日1回400mg - 好酸球増多症候群/慢性好酸球性白血病(FIP1L1-PDGFRα陽性)
1日1回100mg(最高400mgまで)
グリベックの副作用
グリベックで頻度が高い副作用として、以下が挙げられます。
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
- 顔や四肢のむくみ
- 皮膚障害(薬疹)
頻度の高い症状と合わせ、注意すべき副作用についても見ていきましょう。
副作用報告と頻度
グリベックの主な副作用と頻度は、以下のように報告されています。(グリベックCML特定使用成績調査 324例)
グリベックの副作用発現時期としては飲み始めが多く、56.46%が服薬後6か月未満です。
グリベックの主な副作用と頻度は、以下のように報告されています。
- 骨髄抑制:血小板減少(40.7%)・ヘモグロビン減少(40.1%)・白血球減少(35.2%)・赤血球数減少(38.8%)
- 発疹(20.9%)
- 浮腫・顔面浮腫(10.8%)
- 悪心(10.4%)
- 下痢(7.4%)
※通常の抗がん剤で報告の多い脱毛は、0.9%との報告されています。
吐き気・嘔吐
吐き気は内服をはじめて、比較的早期に出やすい副作用です。
飲み始めてから1週間くらいで起きやすいのですが、最初の服用から数時間後に出始める方もいます。
グリベックによる吐き気の原因は、消化管への刺激作用にあります。
これを防ぐために、少し多めの水での服用がおすすめです。200ml程度の水で内服をしましょう。
下痢
下痢も吐き気と同様で、グリベックの内服を始めて1週間以内に起きやすいとされています。
水のような便が続くと脱水症状を引き起こす可能性があるので、水分補給をするよう心がけましょう。
また、辛い物などの刺激が強い食事や消化に負担のかかる食べ物を避けることも大切です。
むくみ(浮腫)
むくみも比較的でやすい副作用であり、内服を開始してから2〜3週間後に感じ始める方が多い症状です。
特に、顔・眼の周りにでやすいと言われていますが、手や足にも現れる場合があります。
足にむくみがでると、普段はいている靴でもきつく感じます。
「体重が急激に増えた」場合は、むくみが原因の可能性があります。
発疹
発疹などの皮膚症状は、グリベックを飲み始めて1ヵ月以内に起きやすいと言われている症状です。
皮膚症状は重症化することもありますので、いつもと違う発疹には注意が必要です。
その他の副作用
グリベックの服用により血液中の好中球が減少することがあります。
好中球は体を細菌感染から守る働きをするため、感染しやすくなってしまいます。
また「抗がん剤は髪の毛が抜ける」とイメージされる方もいるのではないでしょうか。
グリベックは分子標的薬ですので、他の抗がん剤と比べると脱毛の頻度は低く、通常量の1日400mgでの内服での報告はほとんどありません。
妊娠と授乳
妊娠に関しては、女性は避妊することとされていて、妊娠中は禁忌とされています。
これは国外ではありますが、妊娠中に服用した患者さんで流産や奇形の報告があり、ラットでの動物実験でも、最高用量相当を投与すると明らかな催奇形性が認められたためです。
グリベック内服中の男性も避妊が勧められています。
妊娠を希望される場合は、チロシンキナーゼ阻害薬はおそらく受精には問題とならないので、妊娠が判明するまでは内服していただき、その後インターフェロンに切り替えて治療する方法が考えられます。
授乳についても、乳汁移行するのは最大量使っていても治療用量の10%以下とは報告されていますが、乳児への影響がわからないために避けることとされています。
グリベックの薬価
グリベックの先発品と後発品の薬価は、以下の通りです。※2023年4月現在
- 先発品(グリベック):100mg錠(1,789.5円)
- 後発品(イマチニブ):100mg錠(390.3円:199.6~609.9円)・200mg錠(1,163.2円)
グリベックの先発品には200mg錠剤がありませんが、後発品には200mg錠剤があります。
まとめ
- グリベックは分子標的薬といわれる抗がん剤の1つです。
- グリベックは慢性骨髄性白血病や消化管間質腫瘍などの治療薬です。
- グリベックの主な副作用は「吐き気」「下痢」「むくみ」「発疹」などです。
執筆者紹介
由井 俊輔
上野御徒町こころみクリニック院長
血液専門医/総合内科専門医/日本内科学会認定内科医/日本医師会認定産業医/がん治療認定医/造血細胞移植認定医/難病指定医
監修者紹介
山口 博樹
日本医科大学血液内科 大学院教授
上野御徒町こころみクリニック顧問
血液専門医/血液指導医/がん治療認定医/造血細胞移植認定医/骨髄移植推進財団ドナー調整医師/総合内科専門医/総合内科指導医/日本内科学会認定内科医
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
上野御徒町こころみクリニックでは、血液患者さんの治療と社会生活の両立を目指し、大学病院と夜間連携診療を行っています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年1月18日
関連記事
【販売中止】フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の効果と副作用
フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)は、鉄欠乏性貧血に処方されるカプセル剤です。 徐放性の薬剤であり、1日の内服回数を少なくすることで服用の負担を軽減できます。 今回は、フェルムカプセルの効果や副作用につい… 続きを読む 【販売中止】フェルムカプセル(一般名:フマル酸第一鉄カプセル)の効果と副作用
投稿日:
人気記事
紫斑病の症状・診断・治療
紫斑病とは? 紫斑病とは、止血に重要な働きをしている血小板が減少してしまうことなどで、血が止まりにくくなっているときに起こります。 その原因は様々で、血小板の機能に異常がある場合、凝固因子といわれる止血に必要なタンパクが… 続きを読む 紫斑病の症状・診断・治療
投稿日: